連載小説 Δ(デルタ)(40)

執筆者:杉山隆男 2018年1月20日
タグ: 尖閣諸島
エリア: アジア
沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (C)時事

 

【前回までのあらすじ】

愛国義勇軍に乗っ取られた巡視船「うおつり」の中で、唯一自由の身である市川。彼は、手なづけた張と2人で、義勇軍退去用に使うと思われるボートを破壊することにした。「うおつり」は退去後、爆破されてしまうからだ。市川はその計画を実行に移し始めた。

 

     31(承前)

 市川と張(チャン)の2人は倉庫を出ると、左右両サイドを筋張った分厚い隔壁に覆われた通路を船尾方向に進んだ。この隔壁の向こうには甲板を突き抜けて細長い煙突がそれぞれ通っており、巡視船としては

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執筆者プロフィール
杉山隆男(すぎやまたかお) 1952年、東京生れ。一橋大学社会学部卒業後、読売新聞記者を経て執筆活動に入る。1986年に新聞社の舞台裏を克明に描いた『メディアの興亡』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。1996年『兵士に聞け』で新潮学芸賞受賞、以後『兵士を見よ』『兵士を追え』とつづく「兵士シリーズ」は7作目の『兵士に聞け 最終章』で完結した。ノンフイクション、小説、エッセイなど精力的に執筆し、『汐留川』『昭和の特別な一日』『私と、妻と、妻の犬』など著書多数。
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