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Bookworm (68)

諸田玲子『尼子姫(あまごひめ)十勇士』

評者:縄田一男(文芸評論家)

2019年8月4日
タグ: フランス 日本
エリア: ヨーロッパ アジア

不羈奔放に展開する
史実を超えた“伝奇小説”

もろた・れいこ 1954年、静岡県生まれ。96年、『眩惑』で小説家デビュー。2007年、『奸婦にあらず』で新田次郎文学賞受賞。近著に『波止場浪漫』、『帰蝶』など。

 本書の第4章「合戦」の中盤で、尼子軍の旗頭ともいうべきスセリ姫が、謎めいた自身の侍女ナギに鳩尾を蹴り上げられ、ぴたりとおおいかぶさられる場面がある。
 すると、どこにいるのか、男の声が落ちてきて「大蛇退治の際に娘を櫛に変えた。秘伝の術で、うぬらの魂を入れ替える」というではないか。
 そして、キエッと鳥が首を絞められたときのような声がして、一陣の旋風が砂塵を巻きあげた――。
 おぉ、まるで〈風太郎忍法帖〉ではないか。うれしくなってしまう読者も多かろうと思う。
 帯の惹句には“著者初の壮大な歴史ファンタジー”とあるが、私は敢えて伝奇小説と呼びたくなる。
 私たちは、尼子が月山富田(がっさんとだ)城を奪還しようとしつつも、十勇士の筆頭、山中鹿介(しかのすけ)からして、悲運の最期を迎えたことを知っている。だが、物語がこのような不羈奔放さで展開されていくのだから、史実通りストーリーが進むのかは、最後の1ページを読了するまで分からないのだ。
 だいいち、前述の山中鹿介からして、尼子再興の大望をといいながら、スセリ姫を組み敷く、ダークヒーローとして登場し、尼子再興は、スセリ姫への愛情ゆえの行為だと、断じてはばからない。その他の十勇士も、目的は1つでありながら、割合と自分の欲望に忠実であることがほほえましい。
 だが、この作品の優れた伝奇性は、八咫烏を己の守り神とするスセリ姫が、魂と身体を入れ替えられたまま、神々を身方につけるために、黄泉国、地底に下りていく過程で発揮される。姫は出雲の神々の申し子であり、八百万の神々が力を貸してくれるはずだという。
 その行手を阻むのは、前述の姫の魂を入れ替えた世木(せぎ)忍者、すなわち、古えの出雲国でつくられた軍団の末裔・ムササビ。
 そして姫は、黄泉国、その地底の大殿堂で、さまざまな霊のことばを聞くことになる。
 〈スセリビメよ、だれかのものであるものなどなにひとつないのだ〉
 〈この世のすべては空しく、愚かしく、意味などないのだよ〉等々。
 このくだりは、冒頭に引用されているシェイクスピアの『ハムレット』1幕2場の台詞と呼応し、作品の深味を象徴している。
 この他、作中人物で面白いのは、敵が来る前に尼子誠久(さねひさ)とスセリ姫の子、勝久に筆下ろしをしてやる遊女・黄揚羽であろう。
 これぞ作者の新境地といえよう。

カテゴリ: 社会 カルチャー
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