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Bookworm (96)

唯川恵『みちづれの猫』

評者:吉川美代子(アナウンサー・京都産業大学客員教授)

2020年3月7日
カテゴリ: カルチャー
エリア: アジア

猫好きな人も苦手な人も
猫と人が織りなす7編の物語

ゆいかわ・けい 1955年石川県生まれ。84年に「海色の午後」でデビュー。2002年『肩ごしの恋人』で直木賞を、08年『愛に似たもの』で柴田錬三郎賞を受賞。

 逆光の中の猫。顔や模様ははっきりわからないけれど、声をかければミャーと答えてくれそう。頬ずりしたら香ばしい匂いがするに違いない。こんな写真がカバーの本、猫好きなら誰だって手に取るだろう。
 7つの短編、それぞれの主人公の人生に何らかの形で猫が登場する。「ミャアの通り道」の4ページ目、「ミャアがそろそろ旅立ちそうです」。この1行を読んだ瞬間、4年前に22歳で逝った茶トラのゲンを思い出して涙が止まらなくなり、新幹線の中で読むのは断念。ミャアの最期を家族中で看取った時、主人公の胸を締め付けるのは悲しみばかりではなく、過ぎた月日の重さだった。ゲンの身体をなでながら私も同じ思いだった。
 「陽だまりの中」は、息子を亡くした女性と息子の子を身ごもったという若い女性との交流が、庭先にやってくる野良猫の親子の様子とからめて描かれる。読み終わると優しい笑顔になれる。
 「残秋に満ちゆく」は、性同一性障害の息子が原因で離婚し、息子とも縁を切った女性の話だが、自立している主人公が重くつらい過去を引きずらないでいる様子に救われる。でもこの話、孤独な女性が猫に癒されるというありがちな展開ではない。結婚前に同棲していた昔の恋人が訪ねてきて、彼女にある頼みごとをする。死期が迫る彼は何を頼んだのか、猫好きの人ならきっと納得。
 「約束の橋」。主人公幸乃の人生に様々な猫たちが寄り添ってくれる。幸乃はこう思う。「猫好きは、すべての猫を好きになる。美しかろうが薄汚れていようが、雑種であろうが血統書付きであろうが、他人の猫であろうが、(中略)関係ない。すべてが愛おしく、すべてに心躍る」。その通り!
 62歳の幸乃は保護猫の引き取りを断られる。高齢になって、猫の面倒が見られなくなるかもしれないからだ。私も同じ経験をした。でも幸乃はペットショップで売れ残っていた猫を飼い始める。そして、約束する。「あなたより絶対先に死んだりしないから」。私は1年前に友人が保護した子猫2匹を飼い始めた。絶対長生きするよ、と誓いながら。
ミーコを見送り、幸乃もその時を迎える。「橋」を渡る時、先に逝った猫たちが迎えに来てくれる。幸せな最期だ。本を抱えて号泣した。
 ベタベタの猫愛ものではないので、猫が苦手な人にも読んでほしい。きっと登場人物たちを応援したくなるはずだ。そして、猫なしではどの物語も完結しないことに気づくだろう。

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