いまや「タイ式民主主義」が果たす“非民主的”役割

執筆者:樋泉克夫 2009年1月号
エリア: アジア

 十二月二日、タイ国王は久々に公の場に姿をみせ、近衛兵閲兵式で国民に団結を呼びかけた。同日、憲法裁判所は二〇〇七年末の総選挙の選挙違反を理由に、与党三党の解党と三党役員の被選挙権五年間剥奪を命じた。かくてタクシン元首相を支持するソムチャイ政権が崩壊し、同元首相の政界追放を掲げ首相府や国際空港を占拠するという前代未聞の強硬手段を続けてきた民主主義市民連合(PAD)は闘争を切り上げる。長かった混乱に幕が引かれ、政局の焦点は新政権作りへと移った。 十二月十五日にはタイ下院で臨時会議が開かれ、反タクシン派で、〇一年のタクシン政権発足以来、一貫して野党であった民主党のアピシット党首が新首相に選出された。タクシン支持勢力はついに野党に転落した。だが、〇五年末以来のタイ政局混乱の根本要因であるタクシン対反タクシンの対立構図が解消されたわけではなく、近い将来に予想される総選挙、政界再編の過程では、PADの再始動、逆にPADの過激行動に学んだタクシン支持派の実力行使だけではなく、国軍によるクーデターすら否定できない情況といえる。

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執筆者プロフィール
樋泉克夫(ひいずみかつお) 愛知県立大学名誉教授。1947年生れ。香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士課程を経て、外務省専門調査員として在タイ日本大使館勤務(83―85年、88―92年)。98年から愛知県立大学教授を務め、2011年から2017年4月まで愛知大学教授。『「死体」が語る中国文化』(新潮選書)のほか、華僑・華人論、京劇史に関する著書・論文多数。
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