
「検察共和国」を再構築する
韓国には「検察共和国」という言葉がある。「大韓民国は民主共和国である」という憲法条文を捩(もじ)った言葉であり、起訴権、捜査権、捜査指揮権(警察の捜査を指揮)、捜査終結権などの独占の歴史を揶揄している。軍事政権の下では軍事政権に協力し、民主化以降は政権末期に基盤が弱くなった政権を徹底的に捜査することで、検察はその存在感を維持してきた。韓国社会において検察は、誰も牽制できない権力だと言えるかもしれない。
こうした状況を解消するために、検察を含む司法体制の抜本的な改革も進められた。今年に入ってからも、汚職や経済犯罪を除いて検察の捜査権を警察に渡し、起訴と捜査を分離する改正検察庁法、いわゆる「検察捜査権剥奪法」が成立した。尹錫悦大統領就任のわずか10日前、4月30日のことである。新大統領がこの法案に拒否権を行使することを避けるための戦略であった。改正検察庁法によって、検察はこれまで独占してきた権力を失うことになった。
尹錫悦大統領は、昨年3月、当時与党の「共に民主党」が進めた同法案をめぐる動きに反発。検事総長を辞任し、事実上の大統領選出馬宣言をした。尹氏の側近検事らも同様に、一斉に反発してみせた。
大統領は「奪われた」検察権力を取り戻すために、就任直後から人事権を利用し「検察共和国」の復活劇を目論んでいるように見える。検察出身の側近が相次いで政府要職に任命されていることは、国政分野における検察の影響力拡大を示している。とりわけ、法務行政関連ポストに「尹錫悦キッズ」と呼ばれる側近検事たちを抜擢し、「検察捜査権剥奪法」の抜け道を見つけ、無力化を狙っている。
「検察・メディア癒着」の被疑者から「法務大臣」へ
法務大臣がキーマンとして浮上した。

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