アフリカスタートアップ市場「2023年の注目」はコンゴ民主共和国

執筆者:不破直伸 2023年2月12日
エリア: アフリカ
チュニジアのインキュベーションセンター:The DOTにて、筆者撮影
アフリカスタートアップ市場が昨年も比較的堅調だった背景にはクリーンテックの資金調達や各国のスタートアップ優遇制度があるが、「忍耐の年」を乗り越えた2023年は、「新興市場の成長」が注目ポイント。投資家の熱い視線を集めるのがコンゴ民主共和国だという。

 

ポジティブに捉えるべき「忍耐の年 2022年」

 2022年は3月に米国の利上げが実施された前後から市場のモメンタムは全体的に下がる状況であったため、アフリカスタートアップにとっても「忍耐の年」と言えた。いくつかのユニコーン企業で1〜2割の従業員が解雇されたとのニュースが流れ、デット(負債)による資金調達も大きく増加した。

 とはいえ、デットでの資金調達額・件数の増加は、企業が成長し、キャッシュフローの安定性がある企業が増加したこと、市場が一定程度成熟してきていることの裏返しであり、筆者はポジティブに捉えている。

デット資金調達額・件数(出典:Partech社 2022 Partech Africa Report)

 

 2022年のアフリカスタートアップ市場への株式投資額も、世界的に投資額が大幅に減少する中、約49億ドル(約6370億円)と前年対比6%減にとどまり、比較的堅調な結果となった。

 チュニジア発のAIディープテック「InstaDeep」(1億ドル)とナイジェリアのフィンテック「Flutterwave」(2.5億ドル)等の大型調達や、新たに注目されているクリーンテック市場への資金流入などが、堅調の主な要因である。

 業種別の投資額はフィンテックが約19.2億ドル(約2500億円)、続いてクリーンテックが8.6億300万ドル (約1122億円)であった。

 ステージ別の投資¹でみると、シリーズB以降の大型投資額は約28.7億ドル (約3731億円)と前年対比13%減少したものの、シードステージは金額・件数ともに非常に堅調であった。シードステージの投資が多いということは、将来的なシリーズA・Bラウンドに繋がるパイプラインが多く誕生しているということを意味しており、今年以降もアフリカのスタートアップ市場が盛り上がりを見せる可能性が高いと考えている。

 国別にみると、引き続きBig4のナイジェリア、南アフリカ、エジプト、ケニアの4カ国で全体の投資額の約72%を集めている。これら4カ国以外にも、スタートアップ法の成果が出始めているチュニジア、また、ナイジェリア、エジプト、エチオピアに次ぐ人口大国のコンゴ民主共和国等が徐々に頭角を現してきている。

株式投資額・件数(出典:Partech社 2022 Partech Africa Report)
ステージ別株式投資額 (出典:Partech社 2022 Partech Africa Report)
ステージ別株式投資件数(出典:Partech社 2022 Partech Africa Report)
国別株式投資額(出典:Partech社 2022 Partech Africa Report)
 

注目が高まるクリーンテック市場

 以前のクリーンテック関連の記事でも紹介したが、世界的なEV(電気自動車)へのシフトやカーボンクジレット等、クリーンテック市場への注目が高まっている。

 先述の通り、2022年はクリーンテック分野がフィンテックに続いて2番目に投資額を集めたセクターとなった。株式投資額は8.6億ドルと投資額全体(49億ドル)の18%であり、前年対比347%増となった。また、件数ベースでみても43件と、昨年の26件から65%増加した。

セクター別株式投資額・割合 (出典:Partech社 2022 Partech Africa Report)
 

 クリーンテックへの投資を国ベースでみると、ケニアは2.3億ドル、南アフリカは1.5億ドルの金額を集めた。ケニアは2030年までにクリーンエネルギーへの完全移行を宣言し、EVシフトの政策もつくるなど、政府としてもクリーンテック市場に力を入れており、クリーンテック市場に関心の高い欧米人の起業家も多いことから、クリーンテック市場が伸びやすい素地がある。

 ケニアに本社があり、アフリカ・アジアでオフグリッド事業を展開するSun King社が2022年に合計3.3億ドルを調達、ソーラーパネルサービスからテレビ、冷蔵庫、スマートフォン、金融サービス等を提供するケニアのM-KOPAが7500万ドルを調達し、EV自動車の組み立て販売を行うケニアのBasiGoも660万ドルを調達した。BasiGoの案件には、アフリカでも豊富な投資・運用実績を有するNovastar社、日本からは豊田通商が投資を行っている。

クリーンテックの国別投資額(出典:Partech社 2022 Partech Africa Report)
 

 Novastar社のアドバイザーを務める山内理希氏は、「アフリカのクリーンテック市場は今年、グローバルなクリーンテック市場への注目の高まりを背景に、昨年以上に盛り上がるだろう。中でも実需(マーケット)が潜在的に存在し、ビジネスモデルが社会課題解決に直結しやすいEV周辺市場などは注目度が高まるのでないか」と分析し、こう続ける。「アジアの大手投資家もアフリカ進出の兆しを見せ始めている。アフリカのベンチャー投資全体の6-7割が欧米投資家によるものだったが、今後はアジアからのフローも増加するだろう」

 昨年は日系大手商社がカーボンクジレットを扱うアフリカのスタートアップへ相次いでアプローチした。引き続きクリーンテック市場が注目を集めるだろう。

スタートアップ法制度の広がりと課題

 スタートアップに税制優遇などのメリットを付与するスタートアップ法制度がアフリカで徐々に広がっていることも注目点だ。

 2018年にアフリカで初めてスタートアップ法が制定されたチュニジアは、既に800社を超えるスタートアップを優遇対象として認定してきた。官民連携による非常に透明性の高い認定プロセスと適切な優遇制度が効果的に働いている。チュニジアへの投資額は2021年の 3300万ドル(アフリカ全体10位)から2022年には1.1億ドル(アフリカ全体7位)と355%も増加している。

 2022年に1億ドルを調達し、2023年1月にドイツを拠点とするバイオテクノロジー企業「BioNTech」に買収されたチュニジアのAI開発企業InstaDeep社も同優遇制度を活用しており、少しずつではあるがスタートアップ法の成果が出てきている。同国では、国内投資家の大半が先ずチュニジア政府に認定されたスタートアップか否かで初期判断をする傾向がある。こうした点からも、スタートアップ法の効果・影響が出ていることが窺える。

 チュニジアは、これまでの経験をベースにスタートアップ法の改良を進めており、海外人材の獲得をスムーズにするためのスタートアップビザやチュニジア企業の海外展開を加速させる優遇制度が次の改正版に盛り込まれる予定だ。

 チュニジアの隣国のアルジェリアも政府認定・優遇措置を急ピッチで進めており、約2年間で既に約1100社のスタートアップへの優遇がなされ、インキュベーターも14社から60社まで増加するなど、同国のエコシステムが急速に発展している。

 スタートアップ法は2022年はコンゴ民主共和国やナイジェリアが、2023年1月にはトーゴが制定し、エチオピアも準備を進めており、今後アフリカの様々な国へ広がりを見せていくだろう。

 筆者は、今後は個別国のみで適用される認定ではなく、A国で認定されたスタートアップはB国でも優遇制度を受けられる等、共通のスタートアップ法制度をつくっていく必要があると考えている。アフリカスタートアップは、各国の市場規模がそれほど大きくないため、他国展開をしていくことが多いからだ。また、基本的にスタートアップ法で優遇を受けられるのは、国内スタートアップ及び国内スタートアップに現地で投資をする投資家に限られるため、国内スタートアップが設置する米国等のホールディング会社に投資する海外投資家も優遇を受けられるような法改正についても提言を行っている。

 そのためには政府間のネットワークをより強化し、情報交換を進めていく必要がある。筆者が所属するJICA(国際協力機構)はその流れをつくるため、各国のスタートアップ法制度関係者の意見交換・交流を進めているところだ。

 エチオピアのJICA専門家の原祥子氏(起業家支援担当)は「民間(=スタートアップ)から信頼される制度にする必要があり、透明性のある意思決定プロセスを民間と一緒につくっていくことが鍵になる」と指摘する。また、「アフリカ各国の投資家・スタートアップ同士の交流はあるが、政府間の交流は多くない。スタートアップ法案は各国ともに未だ試行錯誤の段階。交流を増やし、それぞれの国の教訓を共有していくことが重要」と語る。

チュニジア政府機関とナイジェリア政府機関の意見交換会(筆者撮影)
 

期待が集まるコンゴ民主共和国

コンゴ民主共和国の首都キンシャサの街中の風景(筆者撮影)
 

 2023年のアフリカスタートアップ市場は、米国の利上げ等を背景に市場のモメンタムが引き続き低下しているものの投資需要は底堅いため、全体的な投資額は大きくは増減しないと想定される。ただ、ゾンビ企業が淘汰され始め、各スタートアップの経営状況に応じて企業価値が大きく変わっていくだろう。

 それに伴い、今年は昨年以上にM&Aや他国進出が加速するのではないかと考えている。また、投資家の他国展開/それに伴うスタートアップの他国展開も加速していくだろう。フィンテック・ロジスティクス等の知見・経験を有する分野のスタートアップが、既に一定の成熟を見せるナイジェリアやケニア等の発展経験をベースに他国の未成熟な市場へと進出していくのではないかと予想する。

 一例がコンゴ民主共和国だ。筆者は2023年1月末から2月上旬にかけコンゴ民主共和国に渡航し、政府機関、投資家、スタートアップ等を訪問した。

 2021年の投資額ランキングでは30位内に入っておらず圏外であったが、2022年は3800万ドルを集め、ウガンダに続く11位となる等、成長を遂げている。アフリカ4位の人口約9600万人を有する同国の首都キンシャサの人口は約1700万人とナイジェリア・ラゴスに匹敵する規模であり、2100年には国全体で3.6億人、首都キンシャサは約6000万人規模になると予想されている。1人あたりのGNI(国民総所得)は550ドル(2021年)と未だ発展途上ではあるが、携帯保有率は45.6%、インターネット普及率は13.6%と、今後の市場の改善余地が大きく、成長ポテンシャルは非常に大きい。

 既に複数のベンチャーキャピタル等の投資家がコンゴ民主共和国へ訪問し、スタートアップ投資機会の調査を行い、ナイジェリアやカメルーン等の他国のスタートアップが同国への進出を検討しパートナーを探し始めている。皆が口をそろえて「コンゴ民主共和国は非常にポテンシャルが高く、ナイジェリアのスタートアップと同じように急成長していく可能性がある。コンゴ民主共和国のように成長性の高い国に、出来る限り早い段階で進出したい」と語る。同国は2022年に東アフリカ共同体(East African Community)にも7カ国目として加盟した。東アフリカ・ケニアのKCBグループやタンザニア最大のCRDB銀行等がコンゴ民主共和国に進出を始めており、今後、東アフリカの事業会社のコンゴ民主共和国への進出も進んでいくだろう。

 今年はコンゴ民主共和国の成長に期待したい。

コンゴ民主共和国の首都キンシャサにあるインキュベーション施設Ishango Startup Center(筆者撮影)

 

1] スタートアップのビジネスの段階に応じてシードステージ、シリーズA、シリーズBの投資がある。 

 シードステージ:大枠のビジネスが定まった段階にあるスタートアップに対する投資。一般的に製品の具体的な内容や販売方法などは決まっておらず、プロトタイプを開発している段階。 

 シリーズA:プロトタイプが完成し、製品の提供を開始している段階。 

 シリーズB:シリーズAに続く資金調達。一定の収益を生み出しており、ビジネスが軌道に乗り始めた段階にあるのが一般的。 

カテゴリ: 経済・ビジネス
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