市長・知事時代の逸話が雄弁に語る李在明大統領「仕事の流儀」

執筆者:澤田克己 2025年6月25日
タグ: 李在明 韓国
エリア: アジア
6月11日に実行した北朝鮮向け宣伝放送の停止も李氏のスタイルにふさわしい[日韓国交正常化60周年の記念行事に大統領が寄せたビデオメッセージ=2025年6月17日、韓国・ソウル](C)EPA=時事
ポピュリスト的との批判はあるが、李大統領の「アピールできる成果」重視は日本に悪いことではないかもしれない。成果の出にくい歴史認識などでの対立よりも、問題解決を優先する可能性があるからだ。大統領選で李氏が強調してきた「小さなことから迅速に処理」するというスタイルは、すでに城南市長時代、京畿道知事時代に韓国社会の話題を集めたいくつかのエピソードの中に見て取れる。

 韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領が6月4日に就任した。就任式では「堅固な韓米同盟を土台に韓米日協力を固め、周辺国との関係も国益と実用の観点からアプローチする」と強調した。そしてドナルド・トランプ米大統領と6日、石破茂首相とは9日、習近平・中国国家主席とは10日に電話で協議した。韓国大統領の就任直後の電話協議や外遊では順番が重視されており、日本を中国より先にした意味は大きい。李氏と同じ進歩派政党「共に民主党」所属だった文在寅(ムン・ジェイン)元大統領が2017年に就任した際には米国との電話協議の翌日に、日中両国を並べていた。

 就任当日の記者会見で徴用工問題への対応について問われた李氏は、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権の打ち出した解決策の踏襲を示唆した。「国家間の関係では政策の一貫性が特に重要だ。国家間の信頼という問題があるので、その点を考慮しないわけにはいかない。個人的な信念を国家の政策に押し付けるのも簡単ではない。それが現実だ」と述べたのである。これも、安倍晋三首相(当時)との最初の電話協議で「韓国人の大多数が情緒的に慰安婦合意を受け入れられずにいる」と切り出した文氏とは好対照をなした。文氏は理念先行、李氏は実用主義と言われるが、まさにそれを反映した形だろう。

 主要7カ国(G7)首脳会議出席のため訪問したカナダで17日に石破首相と初めて対面で会談した際にも、日米韓連携と日韓関係の重要性で一致し、尹政権で復活した首脳同士の「シャトル外交」を続けていくことにも意欲を見せた。自身に対する日本側の疑念を強く意識して行動していることがうかがえる。

 ただ、李氏の外交スタンスは依然として未知数の部分が残る。ソウル近郊の京畿道城南市長を2期、京畿道知事を1期務めただけで、3年前の大統領選で民主党の候補となった。国会議員になったのはその後のことで、外交経験は皆無に近い。ならば、政治家としての原点である首長時代の仕事ぶりを見れば参考になる点があるかもしれない。最近の言動と引き付けながら、韓国メディアの報道をベースに李氏の「仕事の流儀」を見てみたい。

「小さな」「できることから」「やったらアピール」をさっそく実践?

 李氏が強調してきたのは「小さなことから」「すぐ実行できることから」処理していくというスタイルである。聯合ニュースなどによると、李氏は大統領選の遊説で市長時代を「一番幸せだった時期だ」と振り返りながら、自らのモットーとして「小さなことから迅速に処理」することを挙げた。「(市長時代から)机の上には何もない。きれいにしている。山のように仕事がたまったら、簡単なことから迅速にやってのける」と話した。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
澤田克己(さわだかつみ) 毎日新聞論説委員 1967年、埼玉県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。在学中、延世大学(ソウル)で韓国語を学ぶ。1991年毎日新聞社入社。政治部などを経てソウル特派員を計8年半、ジュネーブ特派員を4年務める。論説委員を経て2018年から外信部長。20年から再び論説委員。著書に『「脱日」する韓国』(ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)『新版 北朝鮮入門』(共著、東洋経済新報社)など多数。
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