「MAGA」から読み解くトランプ2.0エネルギー政策の論理と精神

執筆者:小山堅 2025年8月19日
エリア: 北米
MAGA支持者は、石油・天然ガス生産力の最大化こそがアメリカの国益に適うと考えているようだ「MAGAの帽子をかぶった男性=2025年6月10日、米国・ノースカロライナ州」(C)EPA=時事
7月に成立した最大の経済アジェンダ、大型減税法案でもCCS(二酸化炭素回収・貯留)や原子力など一部を除けばクリーンエネルギー投資への逆風は明確だった。トランプが気候変動対策に後ろ向きなのは広く知られるところだが、そもそもこの分野への投資が低評価である理由は何なのか。あるいは、エネルギー政策の中心課題「エネルギー・ドミナンス(Energy Dominance)」は、なぜ重要と見なされたのか。「MAGA(アメリカを再び偉大にする)」思想のトランプ2.0エネルギー政策における現れ方を考える。

 世界経済の先行きに大きな不安感をもたらしてきたトランプ関税は、日本を含む各国との引き下げ交渉を経て、8月7日から新たな関税率が発動されることとなった。日本の場合は当初25%とされた相互関税率を15%に引き下げることが合意されたが、そのために5500億ドルという巨額の対米投資を日本が行うことなども決まった。合意した各国において、関税率は引き下げられたが、それでもその水準はトランプ2.0以前よりは大幅に高く、世界経済と国際貿易全体にとって大きな負担となることは必至であろう。また、日米合意にも見られる通り、合意に基づく今後の双方の取組みについて、詳細や具体化については必ずしも明確でない部分もある。トランプ関税に関わる諸問題は、各国と米国との二国間関係、そして世界経済全体にとって、重要な波乱要因であり続けることになろう。

 また、イラン情勢やロシア・ウクライナ戦争を巡る情勢など、今日の世界の重大な地政学リスクに関しても、トランプ2.0の対応戦略が与える影響は甚大である。場合によっては、中東情勢やウクライナ情勢が一気に流動化し、世界をさらに激震させる可能性もゼロではない。米国と戦略的競争者である中国との関係についても同様である。

 こうした認識の下、本稿ではトランプ2.0の政策の根本を為す思想や原理・原則、あるいは基本的思考に立ち戻り、その特徴を改めて考察し、それがエネルギー政策にどのような影響を持ちうるものなのかを検討してみることとしたい。以下では、トランプ2.0の政策の根本を為す思想として、「Make America Great Again(MAGA)」を取り上げることとする。ドナルド・トランプ大統領の政策にとって、MAGAの基本スタンスは極めて重要な意味を持ち、政権内あるいはトランプ支持層の中でもMAGA派の影響力は見逃せない重要さを持つからである。

「Energy Dominance」追求のための規制緩和・撤廃

 MAGAは、第1次トランプ政権から使われてきた言葉であり、そもそもの始まりはレーガン政権が使ったことによるともされる。トランプ2.0でのMAGAには様々な考えが包含されているとも考えられるが、単純化すれば、かつてのアメリカがそうであったように、経済的な繁栄を謳歌し、圧倒的な安全保障の力・軍事力を有し、古き良き伝統的価値観を持っていたアメリカを取り戻す、ということになろう。これらの点で、かつて偉大であったアメリカの力を低下させた原因とMAGA派が見なすものを排除していくことがMAGAの政策として重要になる。MAGAの思想においては、アメリカが負うことになった過度の安全保障・防衛負担、不公平な貿易慣行の甘受、過剰な政府規制、不法移民、行き過ぎたDEI(多様性・公平性・包括性)、過剰な環境政策など、多岐に亘る問題がアメリカ本来の力を削ぐことになったと見なしているのではないかと考えられる。まさにトランプ2.0では、これらの問題にMAGAの思想をもって強力に対処しようとしているように見えるのである。

 この根本的な思想とエネルギー政策の関係はどうなるのだろうか。まず、最も親和的なエネルギー政策上における考えとして「Energy Dominance」を思い起こすことができる。

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執筆者プロフィール
小山堅(こやまけん) 日本エネルギー経済研究所専務理事・首席研究員。早稲田大学大学院経済学修士修了後、1986年日本エネルギー経済研究所入所、英ダンディ大学にて博士号取得。研究分野は国際石油・エネルギー情勢の分析、アジア・太平洋地域のエネルギー市場・政策動向の分析、エネルギー安全保障問題。政府のエネルギー関連審議会委員などを歴任。2013年から東京大公共政策大学院客員教授。2017年から東京工業大学科学技術創成研究院特任教授。主な著書に『中東とISの地政学 イスラーム、アメリカ、ロシアから読む21世紀』(共著、朝日新聞出版)、『国際エネルギー情勢と日本』(共著、エネルギーフォーラム新書)など。
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