トランプ大統領の発言とアクション(8月14日~8月20日):台湾関係をつぶさに見てみよう、関税交渉「負け組」は本当?
「曖昧戦略」と「一つの中国」の二転三転はバイデン流を一部踏襲?
ジョー・バイデン前大統領は「私は失言マシーンだ(I’m a gaffe machine)」(2018年12月の発言)と認めたように、任期中も物議を醸す発言を何度も行った。その最たる例が、台湾に関する発言だ。米国の歴代政権は数十年にわたり、台湾に対し「曖昧戦略」を堅持してきた。中国が仮に台湾を武力侵攻した場合、米軍が台湾を守るかどうかを明確にしないことで中国の行動を抑止する戦略である。しかし、バイデン氏は2021年8月を皮切りに、防衛へのコミットメントを行うとの“失言”を繰り返した。
2022年9月18日にバイデン氏が台湾を守ると語った2日後には、ジェイク・サリバン大統領補佐官(安全保障担当)が会見を開き、政策変更を発表したかとの問いに、「(バイデン氏は)仮定の質問に答えただけ」と強調。「一つの中国」の原則を遵守していることにも言及し、火消しに回った。なお、米国務省は同年5月5日、公式webサイト中の台湾に関するファクトシートら「台湾の独立を支持しない」とする文言を削除したが、バイデン氏が日米首脳会談後の記者会見で台湾防衛への関与を肯定する発言を行った後に、元に戻したという経緯がある。
こうしたバイデン氏の“失言”や国務省サイトにおける「一つの中国」の削除・再掲を、中国に対する意図的なシグナルだとする見方は以前から存在した。その真偽のほどは不明だが、2025年1月に発足した第2次トランプ政権も、前政権と似たような動きを見せている。
2月13日には、国務省のwebサイトから「台湾の独立を支持しない」との記述を再び削除したことが認められた。その後、国務省は5月になって、ウェブサイトからすべての国・地域のファクトシートを削除している。またトランプ氏自身も、5月12日に中国と追加関税の大幅引き下げで合意した流れを受け「中国は国を完全に開放することに合意した。これは中国にとってもわれわれにとっても素晴らしいことだ。統一と平和にとっても素晴らしいことだと思う」と発言。米国の対台湾窓口機関である米国在台湾協会は翌13日、トランプ氏の「統一」発言はあくまで米中間の貿易関係を指し、台湾への政策変更を意味しないと釘を刺した。
批判から一転、TSMCを関税対象外に
トランプ氏は2024年の大統領選中から、台湾に対して「半導体産業を米国から奪った」と批判を浴びせてきた。4月2日の相互関税発表時も、台湾には32%の高率を設定。同月8日には、半導体受託生産で世界最大手である台湾のTSMCに対し、米国内に工場を建設しない場合は最大で100%課税する方針を打ち出した。3月にTSMCが米国における先端半導体製造への投資を1000億ドル増額し、新たに3つの製造工場、2つの先端パッケージング施設、そして研究開発センターを米国計画に追加する予定を発表したにもかかわらず、圧力を掛けた格好だ。
相互関税をめぐる交渉で、両者は合意に至っていない。しかし、ホワイトハウスが7月31日に発表した相互関税の修正版では、台湾への関税率は4月2日当時の32%から20%へ引き下げられた。日本や韓国、欧州連合(EU)などが8月1日の交渉期限切れ前に合意に到達した国・地域の15%を上回るものの、多くの国・地域が該当する15~41%の下方に落ち着いた。
トランプ氏は8月6日、1962年通商拡大法232条に基づき半導体製品に100%の関税を課す方針を表明したが、台湾の国家発展委員会の劉鏡清・主任委員はTSMCは関税の対象外と明言。米国内に工場を建設していない半導体メーカーが対象となるだけに、アリゾナ州に工場を建設済みのTSMCは除外されたのだろう。なお、CNBCによれば韓国当局者もサムスンとSKハイニクスが対象外と明かしているが、シリコンバレーに米国拠点を置く東京エレクトロンなど日本企業は免除を勝ち取っていない。
議会は超党派で台湾支援
台湾の頼清徳総統は8月1日、20%の関税率について「暫定税率」であると強調した。台湾メディア風傳媒は、この相互関税の修正について「交渉失敗」と位置づけ、民進党の対米関係が民主党に偏り共和党とのパイプが不足していると不満を示す。
しかし、客観的に見れば台湾が関税交渉の「負け組」とは言い難い。
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