トランプ大統領の発言とアクション(8月21日~8月28日):住宅ローン詐欺の“武器化”? 「vs. FRB」の新チャプター
パウエルFRB議長は、“賢いフクロウ”だったのか
「人は常々、“賢いフクロウでありたい”と願うものだが、彼こそ当てはまる」――ダラス連銀総裁を2015年に辞したリチャード・フィッシャー氏が指した「彼」とは、ジェローム・パウエル氏のことだ。2017年10月、ドナルド・トランプ大統領がパウエル氏を次期FRB議長に指名する流れで、当時FRB理事だったパウエル氏をタカ派でもハト派でもないとの認識を示す際に、使った表現である。
確かに、パウエル氏はタカ派ともハト派とも判断しづらく、中立派と位置づけられよう。FRB理事時代の2013年5月のFOMC(連邦公開市場委員会)では量的緩和の縮小(テーパリング)開始を支持した。議長就任後は、2019年7月から3回にわたる予防的利下げを決定。コロナ禍に直面した2020年3月には、ゼロ金利と無制限の量的緩和を迅速に再開させ、窮地の米国経済を救うべく、大胆な緩和策を講じた。2022年3月からはインフレ・ファイターの一面を覗かせ、4回連続で0.75%を挟む利上げサイクルを指揮。2023年7月までの約1年4カ月の間に、5.25ポイントもの大幅利上げに踏み切った【チャート1】が、景気後退入りを招くことなく、2024年9月からは利下げに転じ、今に至る。
機を見るに敏なパウエル氏に対し、米上院は2022年5月12日、FRB議長としての再任を80対19の圧倒的多数で承認し、絶大な信頼を示した。海外の著名コメンテーターが「有能で信頼できる(credible and capable)」と絶賛するのも、頷けよう。
だが、トランプ氏の現在の評価は正反対だ。利下げに急がない姿勢を貫くパウエル氏に対し、憤懣やるかたないといった様子。ジャクソン・ホール会合でのパウエル氏の講演を受けて、トランプ氏は改めて「遅過ぎる」と述べ、1月の大統領就任から、少なくとも53回目のパウエル批判を展開した。
トランプ氏が次期FRB議長候補選びに着手するなか、2026年5月に任期満了を迎えるパウエル氏は、議長として最後のジャクソン・ホール会合の講演で利下げへの扉を開いた。パウエル氏は8月22日、「リスク・バランスがシフトしているようだ」と述べた上で、「政策スタンスの変更を保証する可能性がある」と明言。一連の発言内容は利下げを示唆したものと捉えられ、FF先物市場では9月の利下げ織り込み度が再び90%を超えた。
しかし同日の引けには、一転して利下げ織り込み度は75%まで低下する。“賢いフクロウ”らしく、パウエル氏は関税の影響をめぐり、基本シナリオとして「比較的短期的で、物価水準の一時的な押し上げにとどまる」と評価しつつも、インフレへの警戒をゆるめなかった。消費者物価指数(CPI)への影響は「現在、明確に表れ始めている」と指摘、「今後数カ月にわたって蓄積され……そのタイミングや規模は引き続き高い不確実性が残る」と予想した。パウエル氏は6月FOMCで関税による「夏場のインフレ上振れ」を警告したが、ジャクソン・ホール会合でもこの見方は間違っていないと強調した格好だ。米7月CPIのコアや、生産者物価指数(PPI)が前年比で再加速するなかで【チャート2、3】、インフレ警戒を緩めるには、まだ早いと判断したのだろう。
また、短期的にインフレが上方リスク、雇用は下方リスクに傾き、2024年9月、11月、12月の利下げにより、1年前と比べて中立水準に100ベーシスポイント(1%)近づいた状況では、「政策スタンスの変更を慎重に検討する余地がある」と主張。利下げへの扉を開いた一方で、いつ、どれほどの利下げを行うかの言質は与えなかった。
議長就任後に受けてきた主な批判
パウエル氏といえば、今年4月16日に行った講演での質疑応答で「我々は政治的な圧力に左右されず、厳格に行動する」と明言するなど、FRBの独立性を守る闘士として賛辞を送られてきた。確かに、トランプ政権の圧力に屈することなく、金融政策を運営する姿は賞賛に値する。
一方で、FRB議長としての実績を振り返ると、トランプ氏やビル・パルト連邦住宅金融局(FHFA)局長が「政治的」、あるいはメディアが「風見鶏(flip-flop)」と批判を浴びせる要素もある。
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