日本の「リーダーシップの真空」がアジアと世界に及ぼすダメージ
Foresight World Watcher's 5 Tips
本日7日、石破茂首相が辞任を表明しました。これから自民党総裁選を経て、臨時国会が召集され新たな首相が決まるまで、1カ月程度はかかります。参院選からここまで1カ月半。政治の遅滞が懸念されます。
秋は「外交の季節」と呼ばれるように、今年も年末にかけてAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議や日中韓首脳会議、クアッド(米日豪印)首脳会合など、重要な外交日程が詰まっています。ドナルド・トランプ米大統領は米印関係の悪化を受け、インドで開催される予定のクアッド首脳会合への参加を取りやめると伝えられます。一方で、APEC首脳会議(韓国で開催)の前後にはトランプ氏が訪中する形での米中首脳会談の可能性もあります。
日本が直接かかわるもの、日本を取り巻く国際環境に大きな影響を及ぼすもの、これらの重要日程に日本の新たなリーダーはどのような姿勢で臨むのか。
「解党的出直し」という言葉が自民党の参院選総括や石破氏の発言に頻出しますが、その具体像を描くのは容易なことではなさそうです。日本の政治・外交が価値の基準としてきたアメリカが脱価値的な性格を強め、国際社会にもポピュリズムや権威主義の影響が強まっています。価値を外注した上で、政策の軸足を「権力維持」と「分配」に置くような政治が漂流するのは、派閥というその重要な装置も消えたわけですから、ある意味では当然だと言えるでしょう。
自民党が本当に「出直す」なら、格差是正や少子高齢化といった日本の社会課題や厳しさを増す安全保障環境をいわば国民的物語に転換し、その物語を党のアイデンティティに据える必要があるはずです。
言うは易し……ではありますが、日本に強力な政治的中心がなければ国際社会も困るのだ、と米ブルッキングス研究所のミレヤ・ソリス氏は「フォーリン・アフェアーズ(FA)」誌に寄稿した論考の中で述べています。
トランプ氏が大統領令に署名した「戦争省」、中国の最新の軍事力から試算した台湾をめぐるシナリオの変化、対米関係の悪化と軌を一にして中国に接近しているように見えるインドに関する論考も加え、フォーサイト編集部が熟読したい海外メディア記事5本。皆様もよろしければご一緒に。
The Return of the ‘War Department’ Is More Than Nostalgia. It's a Message.【David E.Sanger/New York Times/9月5日付】
「ハリー・S・トルーマン大統領が1949年8月、戦争省の残骸から国防総省を創設する法律に署名したのは、ソビエトが核兵器を爆発させることができるとヨシフ・スターリンが証明してから16日目、中華人民共和国の建国を毛沢東が宣言してから2カ月も経っていない時期のことだった」
「アメリカ人にとって恐ろしい時代であり、新たな名称は、抑止力が重要だった時代を反映したものだった。超大国間で戦争が勃発すれば、地球が滅亡しかねなかったからだ。何十年もの間、核兵器の応酬や超大国の直接衝突を回避できる可能性は、楽観的に見ても低いように感じられた。多くの歴史家にとって、冷戦の最大の功績は、朝鮮戦争やベトナム戦争、キューバ危機、そしてその後の軍拡競争にもかかわらず、冷戦がほぼ継続したことだ」
このように書き始めるのは、米「ニューヨーク・タイムズ」紙でホワイトハウスと安全保障を担当するワシントン主席特派員、デビッド・E・サンガーだ。テーマは、トランプ政権が打ち出した国防総省の名称変更であり、タイトルは「『戦争省』の復活はノルタルジー以上のもの。これはメッセージだ」(9月5日付)。
「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。