トランプ大統領の発言とアクション(9月18日~25日):「アルゼンチン支援」は中間選挙を見据えた賭け
急接近する2つの「MAGA」
米国は1823年1月、後にアルゼンチンとなる「リオ・デ・ラ・プラタ連合州」と外交関係を樹立し、南米諸国との関係構築に先駆的な一歩を踏み出した。それから約2世紀、両国の関係は接近と緊張を繰り返しながら、複雑な軌跡を描いてきた。
第二次世界大戦期には、アルゼンチンが中立を堅持し、1945年3月までナチス・ドイツへの宣戦を見送ったことで、米国は外交的圧力を強めた。これは、米州の安全保障と対枢軸包囲網の形成を重視する米国にとって、同盟的協調を欠く姿勢と映ったためである。
1982年のフォークランド紛争では、米国は同盟国イギリスへの支援を優先し、衛星情報や軍事物資の提供を通じて側面支援を行った。これに対し、アルゼンチンは米国の中立性に疑念を抱き、地域の友邦としての尊重が欠けているとの不満を露わにした。米国の支援が戦局に影響を与えたこともあり、両国間の信頼は一時的に冷え込んだ。
それでもなお、両国はアメリカ大陸の友人として関係を維持してきた。翻って現在、200年の歴史を経て、米国とアルゼンチンは、ドナルド・トランプ大統領とハビエル・ミレイ大統領のもとで、かつてないほど接近している。2023年に大統領に就任したミレイ氏は、トランプ氏に倣って「MAGA―Make Argentina Great Again(アルゼンチンを再び偉大に)」を掲げ、「アルゼンチンのトランプ」との異名を持つ。チェーンソーを振り回すパフォーマンスで知られる強硬なリバタリアンで、規制撤廃と政府支出削減を公約に掲げてきた。既存の官僚機構や国際協調主義に対する懐疑を共有する両首脳は、保守的かつ反グローバリズム的な政治理念に基づき、通商・エネルギー・安全保障分野における二国間連携を加速させている。
トランプ氏は共和党の旗のもと、「米国第一」を掲げて国際秩序の再構築を試みており、ミレイ氏はリバタリアン政党「自由前進(La Libertad Avanza)」を率い、アルゼンチンの国家統制経済からの脱却と、個人の自由を基盤とする急進的な改革を推進している。両者は、国際機関への依存を避け、国家主権と市場原理を重視する点で共鳴しており、外交においても理念的な親和性が顕著である。こうした理念の一致が、地理的距離を超えて、かつては揺れ動いていた米亜関係を、より強固で実利的な協力へと導いている。
「ラテンアメリカにおけるシステム上重要な同盟国」
実利的な協力の一例こそ、スコット・ベッセント財務長官が9月22日に表明したアルゼンチンへの支援だろう。同氏は、X(旧Twitter)にて「アルゼンチンは、米国にとってラテンアメリカにおけるシステム上重要な同盟国であり、財務省は、支援のために自らの権限の範囲内で必要な措置を講じる用意がある」と投稿。アルゼンチンの金融市場安定化に向け、「あらゆる選択肢が検討対象」として、①スワップライン、②米財務省の為替安定化基金(ESF、介入などに使用される原資【チャート1、2】)を通じた米ドル建て国債の購入、③ペソの直接購入(注:ESF経由)などが含まれる可能性に言及した。
この宣言通り、自身も同席したトランプ氏とミレイ氏との会談を経た9月24日、ベッセント氏はXに「状況に応じてアルゼンチンのドル建て国債を購入する用意があり、またESFを通じた大規模なスタンドバイクレジットを提供する」と改めて表明。アルゼンチン中央銀行との間で200億ドル規模のスワップ協定に向けた交渉を行うことも打ち出した。
米タイム誌に「2025年、世界で最も影響力のある100人」の1人に選ばれ、2023年12月に前月比25.5%だったインフレ率を今年8月には同1.9%へ引き下げ、「経済の奇跡」と絶賛されたミレイ氏。同氏率いるアルゼンチンに何が起こったのか。
「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。
