総裁選出前から伝えられていた警告
公明党の連立離脱が党内外に与えた衝撃の余波は今も続いている。関係の冷え込みは数年前から始まっており、ある公明所属議員のベテラン秘書は「(自民党と)意思疎通できる議員がいなくなってしまった」と嘆く。背景には支持母体である創価学会内の権力闘争も見え隠れする。
連立解消から1カ月が経ち、党内では「支持者は好意的に受け止めている」と評価する声がある一方、長く自公政権を担ってきたベテラン秘書らを中心に「政策を実現するなら政権内にいた方がいいに決まっている」との批判も上がる。
高市早苗首相は総裁に選出された10月4日当日のうちに斉藤鉄夫代表との党首会談を行った。ここで政権の右傾化を不安視する公明側から、①「政治とカネ」、とりわけ企業・団体献金②靖国神社参拝と歴史認識③外国人政策および日本維新の会との連携――の3つの懸念を突き付けられたことが明かされている。
もっとも首相就任前の高市総裁が、公明の連立離脱を本気で危ぶんでいた形跡は乏しい。実はこの会談の4日前にも、総裁候補だった段階の高市氏が非公式に公明党本部の斉藤氏を訪ねているという。ある公明関係者はこう証言する。
「この場で斉藤氏は同じような3つの懸念を高市氏に伝えていた。公明側の強い警告の意思は重ねて何度も示されていた」
それでも高市氏は総裁選出後の人事を覆すことはなかった。旧安倍派でいわゆる「裏金議員」の萩生田光一元経済産業相を幹事長代行に充てたことだけではない。副総裁を「自公をつなぐ最大のキーマン」(公明関係者)だった菅義偉元首相から「公明嫌い」で知られる麻生太郎元首相に交代させ、官房長官に地元熊本で公明と対立する木原稔元防衛相を充てた。同様に地元岡山で公明から選挙支援を受けない小野田紀美参院議員を経済安全保障担当相に抜擢した。
学会と自民を仲介できるベテラン議員が続々と引退
公明の方針は支持母体として厳然たる影響力を持つ創価学会の方針に他ならない。高市氏の人事は陣営を支えた側近らへの論功行賞だが、2度にわたる警告の末の断行は、「脱公明」のメッセージと学会側に映ったに違いない。
「とにかく山口那津男、石井啓一が戦犯だ」
先述のベテラン秘書は前代表、前々代表の名前を挙げてこう指弾する。
「創価学会は宗教団体だから、『絶対こうでないといけない』という主張がある。一方で自民党は政党だから柔軟に対応しないと政策を実現できない。その仲介役が公明党だった」
その点で、堅実な人柄で知られる石井前代表も、支持者から絶大な人気を誇った山口前々代表も、学会とは正面から向き合ってこなかったとベテラン秘書は指摘しているのだ。
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