トランプ大統領の発言とアクション(11月20日~27日):「関税収入から2000ドル配当」に暗雲、代替の「オバマケア延長」に党内反発
「政治理念を持たず、完全にディール中心で、自分の利益に資するかどうかで政策を選ぶ」――英エコノミスト誌やワシントン・ポスト紙で活躍したジャーナリスト、アン・アップルバウム氏はドナルド・トランプ大統領をそう評する。
11月25日に高市早苗首相と電話会談を実施したトランプ氏は、「(台湾有事は)存立危機事態になりうる」との高市首相の国会答弁に言及し、事態の沈静化を図るよう働きかけたとウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙や朝日新聞などは報じている。
トランプ政権としては2026年に中間選挙控え、関税問題をめぐって国内経済にも影響を与えつつあった米中対立に、10月30日の米中首脳会談で休止符を打ったばかりだ。その合意が、日米同盟経由で揺らぐ事態を回避したかったに違いない。スコット・ベッセント財務長官は11月24日の米中首脳電話会談後、「我々は常にライバルだが、それは自然なことだ」と述べた。そのうえで、「トップ間で電話会談ができるなら悪い事態を回避できると想定され、両首脳の関係は良好と言える」と強調している
「ファシスト」呼ばわりでもマムダニ氏を歓待
そうしたディール主義は国内政治にも見て取れる。11月21日、先のニューヨーク市長選に勝利した民主社会主義者のゾーラン・マムダニ氏を、トランプ大統領は笑顔で執務室に迎え入れた。選挙直前のCBS「60ミニッツ」のインタビューでは「共産主義者がNY市を運営するなら、そこに送る資金はすべて無駄になる」と補助金停止を示唆したものの、今回の会談では一転してマムダニ氏を擁護、NY支援の方針を表明した。記者会見でマムダニ氏が選挙戦中にトランプ氏を「ファシスト」と呼んだことに話題が及んだ際には、「OK、ファシストと呼んでくれても構わない」と余裕の対応をしてみせた。
CNNは、「マムダニ氏はいかにして扱いづらい存在を魅了したか」と題した記事を配信(現在は記事タイトルが変更されている)。ニューヨーク・タイムズ紙も「マムダニとトランプの会談はMAGA界隈を混乱させた」として、極右活動家のローラ・ルーマー氏による「ジハード主義の共産主義者が大統領執務室に立っているのを見るのは衝撃的だ」とのコメントを紹介した。トランプ支持層の一部には、消化しがたい印象が残ったようだ。
FOXニュースでは、9月10日に銃撃され死亡した活動家チャーリー・カーク氏の番組プロデューサーだったアンドリュー・コルベット氏が、トランプ氏のマムダニ対応について「巧妙な戦略」と評価。マムダニ氏の公約が失敗しても責任はトランプ政権ではなく、マムダニ氏自身が負うだけだからだ。キャシー・ホークルNY州知事が、①NY市バスの無料化、②富裕層向けの増税――などに慎重である事実も、トランプ氏の視界に入っているに違いない。
一方で、この会談後にトランプ氏は、イスラム組織「ムスリム同胞団」の一部支部を外国テロ組織に指定する大統領令に署名してみせた。上記のルーマー氏はこれについても、トランプ氏の振る舞いに不満な支持者を懐柔するのかと批判したが、実際、保守派の支持をつなぎ止める政治的パフォーマンスの色は濃い。感謝祭当日の11月27日にも、第3世界諸国からの移住を恒久停止と、米国市民でない全ての人々向けの連邦給付金と補助廃止を詳細は不明ながら表明した。
個別交渉での「TACO」が関税収入に打撃
中間選挙に向けてトランプ政権が次々に打ち出す施策も、まさに方向転換と位置づけられよう。
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