「非常戒厳」捜査をテコに進む李在明政権「司法改革」の不穏

執筆者:澤田克己 2025年12月23日
タグ: 韓国 李在明
エリア: アジア
大統領選を間近に控えた今年5月には、最高裁が李在明氏(中央)の公選法違反裁判について2審無罪判決を破棄する一幕もあった(C)EPA=時事
前大統領が発した非常戒厳をめぐる捜査と歩調をあわせ、韓国では司法改革も進んでいる。与党に転じた「共に民主党」は12月に入り、戒厳令関連を担当する専門法廷の設置と「法歪曲罪」制定を強行しようとしているが、一連の議論で特に注目すべきは最高裁判事の増員案だ。与党は司法から前政権の影響を排除することを狙っているが、政治が司法を人事で抱き込もうとするのは民主主義破壊の第一歩。方針が実現すれば、李在明大統領は任期中に、26人中22人の最高裁判事を任命することになるという。

 韓国での非常戒厳騒ぎから1年となった12月3日、李在明(イ・ジェミョン)大統領が国民向けの特別声明をカメラの前で読み上げた。尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領による突然の戒厳宣布は、国会による解除要求決議案の可決によって終息した。李氏は一連の経緯について「逆説的ではあるが、国民の高い主権意識と大韓民国民主主義の驚くべき回復力を世界に知らしめた」と自賛した1。ただ、李政権与党によって進められている司法制度改革を見ていると、単純に韓国の民主主義を礼賛してばかりはいられない。むしろ民主主義の危機に陥りかねないという危惧を抱かざるをえないのである。

現与党の「一方的な権限行使」も批判された尹大統領罷免

 まず明確にしておくべきなのは、戒厳令には一片の正当性も見出しがたいということだ。韓国憲法は非常戒厳の発動要件を「戦時やそれに準じる国家非常事態」に限定している。それと関連して尹氏は、北朝鮮を挑発して武力衝突を引き起こそうと画策した罪でも起訴されている2。昨年10月頃に韓国軍のドローンを平壌上空に飛ばして体制批判のビラをまくなどしたというのだが、事実であるとすれば、言語道断としか言いようがない。

 深夜の戒厳令宣布に驚いた多くの市民が、国会前に集まって抗議の声を上げた。特殊部隊が国会議事堂を掌握しようとする緊迫した状況の中、国会は法的手続きを踏んで解除要求決議案を可決し、軍も撤収した。その後、尹氏は国会によって弾劾訴追され、憲法裁判所の審理を経て罷免が決まった。こうした一連の流れは、民主化から40年近くを経た韓国における民主主義の定着ぶりを示すものと評価できる。

 一方、時代錯誤の戒厳令という事態に陥った背景に極端な党派対立があったことは否定できない。

 憲法裁は大統領罷免の決定文で、国会で圧倒的多数の議席を占めていた当時の野党(現在の与党「共に民主党」など)による「一方的な権限行使」も批判した。尹政権の閣僚らに対する弾劾訴追を乱発して職務停止に追い込んだなどと指摘しつつ、「少数意見を尊重し、政府との関係でも寛容と自制を前提とした対話と妥協を通じて結論を得るよう努力しなければならない」という見解を示した。戒厳令はとうてい認められないとしつつ、窮地に追い込まれた尹氏の心情には一定の理解を示す部分も見られた。

“怒り”を招いた大統領選直前の最高裁判断

 25年6月に与野党政権交代を果たして発足した李政権下で尹氏らへの捜査が進む中、与党となった共に民主党が主導して議論され始めたのが「司法改革」である。内容は多岐にわたるが、

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
澤田克己(さわだかつみ) 毎日新聞論説委員 1967年、埼玉県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。在学中、延世大学(ソウル)で韓国語を学ぶ。1991年毎日新聞社入社。政治部などを経てソウル特派員を計8年半、ジュネーブ特派員を4年務める。論説委員を経て2018年から外信部長。20年から再び論説委員。著書に『「脱日」する韓国』(ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)『新版 北朝鮮入門』(共著、東洋経済新報社)など多数。
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