タイの政治混乱が意味するもの――解体に向かう「ABCM複合体」

執筆者:樋泉克夫 2010年9月1日
タグ: タイ 日本
エリア: アジア
赤シャツ陣営は明らかに訓練され統制されていた (c)EPA=時事
赤シャツ陣営は明らかに訓練され統制されていた (c)EPA=時事

 8月23日、タイを訪問した岡田克也外相は、4月の赤シャツ騒動に巻き込まれて日本人カメラマンが斃れた現場に花を手向けた。一連の騒動が収まったとの判断があったからだろう。  タクシン元首相を支持する赤シャツ陣営の有力指導者は逮捕され、あるいは国外に逃亡し、現アピシット政権支持へと鞍替えする元赤シャツ派議員も現れた。事件後最初に行なわれたバンコク下院補欠選挙では与党民主党候補者が赤シャツ陣営幹部を破り当選している。赤シャツ陣営の拠点とされる北部や東北部などに出されていた非常事態宣言も徐々に解除される一方、外国人観光客が落ち込むわけでもなく、GDP(国内総生産)成長率も予想外に堅調だ。バンコクの繁華街を歩いても激しかった衝突がまるでウソであったかのような賑わいをみせる。  息を潜める赤シャツ陣営に対し、確かに現政権は優位に立ったようにも見える。

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執筆者プロフィール
樋泉克夫(ひいずみかつお) 愛知県立大学名誉教授。1947年生れ。香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士課程を経て、外務省専門調査員として在タイ日本大使館勤務(83―85年、88―92年)。98年から愛知県立大学教授を務め、2011年から2017年4月まで愛知大学教授。『「死体」が語る中国文化』(新潮選書)のほか、華僑・華人論、京劇史に関する著書・論文多数。
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