イスラエル・イラン攻撃応酬、米国が悩む「アメリカ・ファースト」と「対イスラエル“特別な関係”」の矛盾

Foresight World Watcher's 11Tips

執筆者:フォーサイト編集部 2025年6月15日
エリア: 中東 北米
イスラエルはパンドラの箱を開けたのか[空爆を受けて炎上するテヘランの石油貯蔵施設=2025年6月15日、イラン・テヘラン](C)EPA=時事

 6月13日前後から激化したイスラエルとイラン双方の攻撃は、対象が核・軍事施設からエネルギー関連施設などにも拡大。モハマド・バゲリ参謀総長ほかイランの軍幹部も多数死亡し、昨年4月の衝突とは次元の違うエスカレーションを見せています。

 攻撃を開始したイスラエルの意図、イランの核開発プログラムは停滞するのか逆なのか、15日に6回目の米イラン核協議を控えていたトランプ政権は事前にイスラエルの攻撃を知っていたのか……事態が急展開する中で、海外メディアにも様々な着眼点・論点が出ています。

 軍事衝突の行方もさることながら、イスラエルとの「特別な関係」をめぐってトランプ政権に垣間見える亀裂にも注目したいところです。米「ポリティコ」によれば、トランプ大統領は今回の事態でイスラエル支援を求めるタカ派に対しては賛意を示し、中東への関与を長年警戒してきた不安定なMAGA孤立主義者に対しては落ち着くよう伝えて、分断を防ぐよう努めたとのこと。安保・外交政策で必ずしも一枚岩ではないトランプ政権のアキレス腱が、ここに浮かび上がっているようです。

 フォーサイト編集部が週末に熟読したい海外メディア記事、今回はイスラエルとイランの情勢に絞って11本をピックアップしました。皆様もよろしければご一緒に。

Israel has taken an audacious but terrifying gamble【Economist/6月13日付】

Israel Is Going for the Death Blow on Iran【Steven A. Cook/Foreign Policy/6月13日付】

「30年にわたってイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、イスラエルにとって最も深刻な外的脅威はイランであると警告してきた。そしてイランの脅威のなかで核爆弾保有計画ほど深刻なものはない。[略]/6月13日の金曜未明、ネタニヤフ氏はついに、この確信にもとづいて行動し、イランを攻撃するためにイスラエルの航空機を次々と送り出した。彼らは首都テヘランの南300キロにあるナタンズの核施設や、核兵器開発計画の関係者を攻撃。さらに、モハマド・バゲリ参謀総長を含むイラン軍上層部も殺害した」

 イスラエルによるイラン攻撃の開始を伝える英「エコノミスト」誌の第一報、「大胆だが恐ろしい賭けに出たイスラエル」(6月13日付)は、このように始まる。その口調は、イスラエルが“戦争”を始めたタイミングはともかく、それが始まったこと自体については驚いていない。

 なぜ始まったのかという背景を説く米「フォーリン・ポリシー(FP)」誌コラムニスト、スティーブン・A・クック(米外交問題評議会(CFR)中東アフリカ研究担当上級研究員)による「イランに致命傷を与えようとしているイスラエル」(6月13日付)のトーンはさらに冷静だ。

「2023年10月9日、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、イスラエルが『中東を変える』と宣言した。耳にした者たちは注意深く聞いていなかったかもしれないし、あるいは単なるレトリックだと思ったかもしれない。しかし、その後20カ月近く続いた残酷な紛争において、イスラエルはこの目標を実現するために多くのことを行ってきた。ほんの数時間前に起きた最近のイラン攻撃では、彼らは抵抗の枢軸に対して最終的かつ致命的な打撃を与えようとしている」
「[ヒズボラによる大規模攻撃を受けた23年]10月7日以降、イスラエルは20年にわたる諜報活動と大きな危険を冒す意欲を武器に、ヒズボラ指導部の首を落とした。2024年秋の1カ月ほどの間に、イスラエルはヒズボラがもたらす脅威を無効化した。その過程で、イスラエルに大規模な被害はなかった。[略]/イスラエルが進んで安全保障環境を変えようとしたことは、レバノンとシリアにも有益な影響を与えた。おそらく、こうした国々のすべての国民がイスラエルの援助を歓迎したわけではないだろう。しかし、レバノンが40年ぶりに、イランのイスラム革命防衛隊の遠征軍である非国家主体[ヒズボラ]から主権を取り戻すことができる政府を持ったという事実は変わらない」

 こう述べてクックは、「今度はイランの番だ。イスラエル人がイスラム共和国を呼ぶところの“蛇の頭”である」と続ける。

「イスラエルによる最初の攻撃の直前まで、そしてその最中も、イスラエル国防軍にはイランの核開発プログラムを阻止する能力はなく、そのような試みをすれば地域戦争に発展するだろうという論評が絶えなかった。イスラエルによるイラン攻撃が始まってからまだ数時間しか経っていないが、こうした確信はもはや、それほど確かなものではなさそうだ」
「10月7日以降、イスラエルは明らかにこのゲーム[イランとアメリカの長年にわたる駆け引き]に飽き足らなくなり、イラン攻撃を頂点とする軍事的解決策に踏み出した。今回の最初の攻撃から数時間後、イスラエルの軍事指導者たちは、単発の攻撃にとどまらない作戦を計画していることを示唆した。攻撃された標的を見れば、イスラエルの目標はイランの核開発計画にダメージを与えること以上に幅広いものであることが明らかだ」

 ネタニヤフ政権によるイランへの大規模攻撃は、偶発的、単発的なものではなく、10.7以降のヒズボラ壊滅作戦から連綿と続く、中東を変えイスラエルの安保環境を改善させる戦略的な取り組みの一環――。このような見方が、攻撃開始前から決して少数派でなかった以上、メディアや論者に大きな驚きがないことは当然だろう。

A Victory for Israel【Matthew Kroenig/Foreign Policy/6月13日付】

 とはいえ、イスラエルが具体的に何をどこまで狙っているのか、これまでの攻勢での“戦果”はどのようなものかは、まだ不透明であり、複数の見方が示されている。

カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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