相次ぐ企業不祥事の背景にあるのは、経営者のモラル・ハザードだけではない。バブル時代の通信各社は、つまり儲からなかったのだ。歪んだ競争の代償は――。 七月十日、米サウスカロライナ州で開かれた米最大の長距離通信会社AT&Tの株主総会。七百億ドル超のケーブルテレビ(CATV)部門売却の正式決定ばかりが注目を集めたが、AT&Tの苦境を象徴するもう一つの案件がひっそりと株主の承認を得た。「まるで破綻間際のドットコム企業だ」。ある株主があきれるのは、AT&Tが五株を一株に併合することを決めたからだ。成長企業が利益還元のために株式を分割するのは珍しくないが、AT&Tの株主は保有株式数が表面的には大幅に減る。もちろん五株を一株にくくり直すだけだから、株主は損をせずAT&Tも直接の利益を得られる訳ではない。なぜ、煩雑な事務手続きを覚悟で併合するのか。ずばり、株価の底割れ回避が狙いだ。

「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。
フォーサイト会員の方はここからログイン