クロアチアで聞いた子供たちの声

執筆者:大野ゆり子 2011年4月24日
タグ: 日本
エリア: ヨーロッパ アジア
ともに遊ぶクロアチア人とセルビア人の子供たち(筆者撮影=2点とも=)
ともに遊ぶクロアチア人とセルビア人の子供たち(筆者撮影=2点とも=)

「僕たちにこんな素敵な場所があるのは、本当に日本のおかげなんだ! だから、何か今までのお返しがしたい。ねえ、東北の子供たちに、ここに来てもらって一緒に遊べないかな? 僕たちに、できることない?」  日本で大震災が起こってから3週間余りたった4月初め、子供たちがこんな風に口々に発言するのを聞いたのは、クロアチア共和国の首都、ザグレブから70キロ離れた田舎町だった。人口1800人のこの町は、かつて敵同士だったクロアチア人、セルビア人がちょうど半分ずつ住む複雑な土地柄。戦後十数年を経て、クロアチアは見事に復興を遂げ、EU(欧州連合)加盟も、目前に迫っているというのに、この土地では戦争で燃やされた憎悪がくすぶり続け、過去に引きずられたまま。それもそのはず。1つの大地が、セルビア人のものになったり、クロアチア人のものになったり、戦争で恣意的に動かされてしまったために、土地の所有権すら、戦後になってもはっきりしないのだ。  2000年代になってから、この土地出身のセルビア人が、一時期避難していたセルビア本国から住み慣れた故郷に帰りたいと帰還しはじめた。ところが、自分が家の土台を築いたはずの土地では、すでに数年前に廃墟になっていた「自分の家」を修復したクロアチア人が、もう住み着いて新しい生活を送っている。仕事があれば、新しい未来も築けるかもしれないが、この土地の失業率は60%。ほとんどの大人たちは、バーにたむろし、ドラッグやギャンブルに手を染めて、現実から逃避することになる。

カテゴリ: 社会
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執筆者プロフィール
大野ゆり子(おおのゆりこ) エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
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