「アラブの春」で幾つかの国では民主化へのプロセスが始まる一方で、シリア情勢は混迷を深め、中東は希望と失望、楽観と悲観、明と暗が複雑に交錯している。今の情勢をどう読んだらいいのか、フランス中東研究所(IFPO)のフランソワ・ビュルガ所長に聞いた。同氏は10月半ば、国際協力機構(JICA)がブルッキングス研究所などと共催した中東問題のシンポジウムのパネリストの1人として来日した。
「アラブの春」への2つの批判
――「アラブの春」から間もなく2年です。どのように捉えていますか。
ビュルガ所長 あまり知られていないことだが、アラブ内に2つの点からの「アラブの春」に対する批判がある。1つは左翼勢力からで、大衆蜂起が起きた当初は資本主義体制を倒す革命の好機到来と捉えた。しかしこの大衆蜂起が米欧各国の支持を得るようになると、「自分たちは米欧とは一緒にやれない」と態度を翻した。左翼勢力、つまり社会主義者はアラブ各国に2、3%と少ないが、「アラブの春」を米欧の支援を受けたものとして批判している。
もう1つの批判は伝統的イスラム主義者からで、彼らは当初、「アラブの春」は国境で仕切られた国民国家を倒し、かつてのように1つの世界になったイスラム圏にカリフ(預言者の後継者、または代理人)を首長とする政治体制を敷く格好の機会が来たと考えた。しかしそうはならず、いまは「アラブの春」を冷ややかに見ている。
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