ブックハンティング・クラシックス (2)

70年前の中国を“活写”した評価定まらぬ古典

執筆者:伊藤正 2005年3月号
エリア: アジア

『中国の赤い星』Red Star Over Chinaエドガー・スノー著/松岡洋子訳ちくま学芸文庫 北京大学構内の未名湖畔に、「中国人民の米国朋友エドガー・スノーの墓」と故葉剣英の筆跡で刻まれた白玉の碑がある。一九七二年二月にジュネーブで死去したスノーの遺骨の一部が、ここに安置されたのは翌年十月だった。墓前での遺骨安置式には、毛沢東、朱徳らが花輪を贈り、周恩来、宋慶齢ら指導者多数が出席した。革命の同志としての扱いだった。その原点に、本書『中国の赤い星』(中国語版は『西行漫記』)がある。 本書は三六年、スノーが中国西北部のソビエト(労農兵代表会議)区と呼ばれた紅軍=共産党軍支配区域(紅区)を訪れ、四カ月にわたって取材した記録である。翌三七年、英国で出版されると、世界は驚嘆した。当時、謎に包まれていた「共匪」(共産ゲリラ)の実情が初めて明かされたからだけではなかった。毛沢東ら指導者たちの知性豊かで理想に燃えた人物像や、幹部、兵士、農民らが生活を共にし、革命への士気を高めていく姿が活写されていたのである。

カテゴリ: カルチャー
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top