蜜月の中露「歴史的な大接近」の脅威

[モスクワ発]ロシアではいま、政治、経済などあらゆる面で中国シフトが進んでいる。アジア諸国の外国語を学ぶ大学生は、日本語よりも中国語を専攻する学生の数が圧倒的に多い。首都モスクワと旧都サンクトペテルブルクでは、ロシア初の本格的な「チャイナタウン」の建設が始まり、いずれ中露両国の蜜月ぶりを象徴するシンボルになるはずだ。
 折しも二〇〇七年は、「ロシアにおける中国年」。ロシアが国家をあげて中国を褒め称える祝賀行事を行なうのは、ソ連時代を含めその歴史上初めてのことである。戦火を交えたこともあるユーラシアの二つの大国は、エネルギーや武器取引を中核に、かつてない歴史的な大接近を図っている。
「中国語の方が、日本語よりも授業料が多少ですが高いですよ」
 モスクワのある国立大学で日本語を学ぶ女子学生(二〇)が、こう教えてくれた。同大学で中国語の授業料は年間二千四百ドル(約二十八万円)だが、日本語は二千百ドル(約二十四万円)。授業料でその人気度が測れるという。実際、二〇〇五年度、中国語科と日本語科を選択した学生数はほぼ同数だったが、〇六年度は、中国語が二十人、日本語が十人と大きな差が出た。彼女によると、多くの学生は、中国との貿易が将来さらに拡大し、就職や事業のチャンスも増えると踏んでいるという。
 大学生たちの間に中国人への恐怖や嫌悪感はないのかと尋ねると、中国人留学生たちは、旧ソ連を構成した中央アジアやカフカス系の留学生と比べて秩序があり、むしろ付き合いやすい相手と映っているという。
 今後、ロシアの「中国シフト」を担うのが、嫌中国感情が強い中高年ではなく、目先の利に敏感な若者になるのは間違いないだろう。
 その「中国シフト」の背後には、最近のロシアを覆うこうした利益至上主義に加えて、世界的な反米感情の高まりの中、米国の一極支配に抵抗し、影響力の回復を目論むプーチン政権の政治の力も働いている。ロシア一国では力不足でも、中国と組めば米国の独走を阻止できる。エネルギーや人権など数々の問題で対立する欧米諸国への牽制にもなる。欧米から最大限の譲歩を引き出し、世界の反米諸国との経済協力を拡大させることは、ロシアの影響力の増大に都合がいいというわけだ。

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