大中華思想五輪

執筆者:名越健郎 2008年10月号
エリア: アジア

 アジアで3回目、社会主義国で2回目の夏季五輪となった北京五輪は、中国の異質性を印象付ける大会だった。 開会式の花火のCG(コンピューター・グラフィックス)化や少女独唱の“口パク”はまだしも、中国の56民族を代表し、民族衣装を着て行進した子供たちの大半が漢民族だった事実は、チベットやウイグルの民族弾圧に蓋をした形だ。歴史と文明を誇示した延々4時間の開会式と合わせ、「大中華思想」丸出しだった。社会主義色や中国現代史が皆無だった点も興味深い。 取材制限や記者への暴行もあったが、暴動やデモが最小限だったのは、人海戦術で徹底鎮圧したためだろう。日本側が憂慮していた反日騒ぎは、中国政府が命じた「文明的観戦」で抑えられたようだ。

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執筆者プロフィール
名越健郎(なごしけんろう) 1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社、外信部、バンコク支局、モスクワ支局、ワシントン支局、外信部長、編集局次長、仙台支社長を歴任。2011年、同社退社。拓殖大学海外事情研究所教授。国際教養大学特任教授を経て、2022年から拓殖大学特任教授。著書に、『秘密資金の戦後政党史』(新潮選書)、『ジョークで読む世界ウラ事情』(日経プレミアシリーズ)、『独裁者プーチン』(文春新書)など。
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