クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

トップ記事と無視 船員とダライ・ラマの差

執筆者:徳岡孝夫 2009年12月号
エリア: アジア

 日々の退屈なニュースの中に、想像もできない宝石が混っている。虚構を扱う小説家なら、「あ、これは奇想天外すぎるわ」と捨てたであろう筋書が、現実の世界にある。私は八丈島沖から生還した三人の漁船員の話を新聞で読んで、ほとほと感心した。小説より奇なりとはこれか、と思った。 海は時化ていた。八人が乗った漁船は転覆した。 調理室の大型冷蔵庫が倒れ、外開きドアを塞いだ。三人は居住区に閉じ込められた。船長と先に出た四人は、一瞬の差で「生」をつかんだはずだった。台風二十号が来て、現場海域を通って去った。捜索は一時中断。四日目、九十時間。家族は、もうダメだと覚悟した。

カテゴリ:
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
徳岡孝夫(とくおかたかお) 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top