一九七一年、八月十六日午前九時半過ぎ。 大蔵省財務官、細見卓の部屋に、ラジオがあたふたと持ちこまれた。英語の短波放送を聞くためである。「午前一〇時(日本時間)から、ニクソン大統領が経済政策について重要演説するので、ラジオを聞いてほしい」という連絡が在日米大使館からあった。 ボイス・オブ・アメリカの放送の受信状態は極めて悪く、聞き取りにくかった。終了後、アメリカ大使館に問い合わせなければならないほどだった。 細見卓は、ドル・ショックの洗礼をラジオで受けたのだが、それは終戦の時の天皇の玉音放送と似て、音声的にはある種の未消化感を残した。
この続きは会員登録をすると読むことができます。
「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。
フォーサイト会員の方はここからログイン