ダーティ・フロート 細見卓『激動する国際通貨』

 一九七一年、八月十六日午前九時半過ぎ。 大蔵省財務官、細見卓の部屋に、ラジオがあたふたと持ちこまれた。英語の短波放送を聞くためである。「午前一〇時(日本時間)から、ニクソン大統領が経済政策について重要演説するので、ラジオを聞いてほしい」という連絡が在日米大使館からあった。 ボイス・オブ・アメリカの放送の受信状態は極めて悪く、聞き取りにくかった。終了後、アメリカ大使館に問い合わせなければならないほどだった。 細見卓は、ドル・ショックの洗礼をラジオで受けたのだが、それは終戦の時の天皇の玉音放送と似て、音声的にはある種の未消化感を残した。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
船橋洋一(ふなばしよういち) アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長。1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒。1968年、朝日新聞社入社。朝日新聞社北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年から2010年12月まで朝日新聞社主筆。米ハーバード大学ニーメンフェロー(1975-76年)、米国際経済研究所客員研究員(1987年)、慶應義塾大学法学博士号取得(1992年)、米コロンビア大学ドナルド・キーン・フェロー(2003年)、米ブルッキングズ研究所特別招聘スカラー(2005-06年)。2013年まで国際危機グループ(ICG)執行理事を務め、現在は、英国際問題戦略研究所(IISS)Advisory Council、三極委員会(Trilateral Commission)のメンバーである。2011年9月に日本再建イニシアティブを設立し、2016年、世界の最も優れたアジア報道に対して与えられる米スタンフォード大アジア太平洋研究所(APARC)のショレンスタイン・ジャーナリズム賞を日本人として初めて受賞。近著に『フクシマ戦記 10年後の「カウントダウン・メルトダウン」』(文藝春秋)、『自由主義の危機: 国際秩序と日本』(共著/東洋経済新報社)、『地経学とは何か』(文春新書)、『カウントダウン・メルトダウン』(第44回大宅賞受賞作/文春文庫)など著書多数。
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