一九六九年十一月二十六日、佐藤栄作首相はワシントンでのニクソン米大統領との首脳会談を終えて、意気揚々と帰ってきた。 ついに念願の沖縄返還が成った。 琉球政府行政主席の屋良朝苗はその前夜、東京のホテルに泊まった。佐藤を乗せた特別機が到着する羽田空港での首相出迎えに出席するため、屋良は上京したのである。 屋良が那覇の公舎を出ようとするところに、沖縄人民党など革新系の与党各派代表六人が来て、上京を思いとどまるように強い調子で詰め寄った。それを振り切ってきたが、二時間あまりの機上、懊悩深く、気が重かった。

「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。
フォーサイト会員の方はここからログイン