饗宴外交の舞台裏 (37)

急浮上した略奪文化財返還問題

執筆者:西川恵 2001年1月号

 イタリア政府はファシスト政権時代にムッソリーニがエチオピアから略奪したオベリスク(古代エジプトの石柱)を近々、返還することを決めた。 このオベリスク(高さ二十四メートル)はローマ市内の国連食糧農業機関(FAO)本部前のポルタ・カペーナ広場に立っている。エチオピア文明の揺籃期の二―四世紀のものとされ、ムッソリーニがエチオピアを併合した翌年の一九三七年、エリトリア国境に近い歴史都市オクスムから略奪し、ローマに運んで現在の場所に立てられた。第二次大戦後、エチオピアは再三返還を求め、九七年に一時まとまりかけたが、エチオピアとエリトリアの国境紛争を理由に先延ばしされてきた。

カテゴリ:
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
西川恵(にしかわめぐみ) 毎日新聞客員編集委員。日本交通文化協会常任理事。1947年長崎県生れ。テヘラン、パリ、ローマの各支局長、外信部長、専門編集委員を経て、2014年から客員編集委員。2009年、フランス国家功労勲章シュヴァリエ受章。著書に『皇室はなぜ世界で尊敬されるのか』(新潮新書)、『エリゼ宮の食卓』(新潮社、サントリー学芸賞)、『ワインと外交』(新潮新書)、『饗宴外交 ワインと料理で世界はまわる』(世界文化社)、『知られざる皇室外交』(角川書店)、『国際政治のゼロ年代』(毎日新聞社)、訳書に『超大国アメリカの文化力』(岩波書店、共訳)などがある。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top