李登輝訪日巡り外務省内部に不協和音

執筆者: 2001年4月号
エリア: アジア

 台湾の李登輝前総統の訪日問題をめぐり、外務省内の不協和音が表面化した。四月六日付毎日新聞が「森首相、ビザ発給検討を指示」と報じた直後、福田康夫官房長官が記者懇談会で指示の事実はないと否定。一方、同じ森派の安倍晋三官房副長官は番記者に対して首相が河野洋平外相に電話をかけ検討するように指示したと言うなど、官邸の意見も統一できないでいる。 当の外務省ではそれに先だって川島裕事務次官(昭和三十九年入省)が主宰した省議で川島次官、加藤良三外務審議官(政務担当・四十年)ら同省の首脳及び槇田邦彦アジア大洋州局長(四十三年)以外の全局長が「ビザを発給すべきだ」という意見で一致したという。しかし、省内“チャイナスクール”のトップである槇田局長は、自民党の外交部会を始め、同党内で田中派以来の親中派の拠点といわれる橋本派に猛烈に働きかけ、同時に中国寄りの河野外相の支持も得て、前述した省議をひっくり返してしまった。こうした槇田局長の行動の背後には、当時はまだ総裁選出馬の可能性もあった野中広務前幹事長の存在があったともいわれており、結局、川島次官ら首脳部は押し切られてしまった。三月末には小寺次郎ロシア課長(五十二年)が政治からの圧力で任期を残したまま交代するなど、政治に弱い同省の体質は、機密費流用事件以来いっそう顕著となっている。

カテゴリ: 軍事・防衛
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