クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

大事なときにミスキャスト

執筆者:徳岡孝夫 2002年5月号
エリア: 中東

 誰か文芸評論家が、上手に戯文を書かないかと待っていたが、書く気配がないので私が書く。森鴎外の長編小説『青年』の主人公は、名を小泉純一といい、ただいまの総理大臣を連想させるし、そこはかとない共通点がある。 明治の小説によくあるように、名は体を表わす。この主人公も、上京して真面目に文学を志す、小さな泉から湧く清水のように純な青年である。漱石そっくりの人物を訪問したり、同郷の年上の未亡人と怪しい雰囲気になったりする。暗い森みたいな前任者と比べ、いまの小泉も政界の泥にまみれず、少し「名は体」を感じさせる。

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執筆者プロフィール
徳岡孝夫(とくおかたかお) 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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