誰か文芸評論家が、上手に戯文を書かないかと待っていたが、書く気配がないので私が書く。森鴎外の長編小説『青年』の主人公は、名を小泉純一といい、ただいまの総理大臣を連想させるし、そこはかとない共通点がある。 明治の小説によくあるように、名は体を表わす。この主人公も、上京して真面目に文学を志す、小さな泉から湧く清水のように純な青年である。漱石そっくりの人物を訪問したり、同郷の年上の未亡人と怪しい雰囲気になったりする。暗い森みたいな前任者と比べ、いまの小泉も政界の泥にまみれず、少し「名は体」を感じさせる。

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