旧東ドイツのエアフルトという中都市で、真昼間に銃を持った覆面の男が中・高校(九年制)を襲った。教師十三人を含む十六人が殺された。最後に教室で、彼は歴史の先生と向き合った。覆面を取ると、退学処分にした元の教え子だった。先生は「僕の目をよく見てから撃て」と喝した。数秒の睨み合い。男は銃口を下げた。先生は教室を出て警官を呼び、警官が駆けつけると銃で自殺していた。十九歳だった。 町の広場で行われた合同葬儀は、ドイツ挙げての痛哭の儀式になった。シュレーダー首相夫妻も参列、犯人の親は死者に宛てた痛悔のメッセージを寄せ、式の様子は全独に中継され、高まる感情の中でドイツ人はここまで歪んでしまった国の現状を、死者と神に詫びた。

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