原発再稼働の行方 ~燻り続ける大飯、先行き不明な伊方

執筆者:原英史 2012年7月11日
タグ: 原発
エリア: アジア

 

7月に入り、関西電力の大飯原発は再稼働へ。政治課題としてはいったん決着した。
だが、橋下徹・大阪市長はあくまで「期間限定の再稼働」を主張。官邸周辺では毎週金曜「再稼働反対」を唱えるデモが、規模を拡大しつつ続けられている。また、原発下に活断層が存在する可能性も指摘されるなど、問題はまだ収まりそうにない。
 
7月5日に公表された国会原発事故調査委員会の報告で、事故の直接的原因として、従来、政府と東電が言っていた津波ではなく、地震だった可能性が指摘されたことも、波乱要因の一つだ。そもそも事故原因さえ正確に認識できていなかったとすれば、昨年来の追加的な安全対策と安全性確認の信頼性も揺らぐ可能性があろう。
 
 大飯の次の再稼働候補と目される、四国電力の伊方原発も、先行き不透明だ。
 伊方原発については、四国電力が昨年11月、ストレステスト一次評価を提出し、原子力安全・保安院の安全性確認は3月末に終了。あとは原子力安全委員会の審査を待つだけの段階となった。しかし、当初4月から見込まれていた新たな原子力規制機関への移行が遅れ、審査が宙ぶらりんになってきた。
 
 新たな原子力規制機関については、6月、政府案(環境省に原子力規制庁を設置)と自民・公明案(三条委員会として原子力規制委員会を設置)の修正協議を経て、原子力規制委員会設置法案が成立。
 ただ、委員の国会同意人事などを経て、新組織の発足は9月になる見通しで、まだしばらく時間があく。
 
 地元の愛媛県・中村時広知事は、再稼働につき、国の判断を待つ立場を示しつつも、前向きな姿勢だ。
新組織発足を待たず、現体制のもとでプロセスを進めることを求めて、「(原子力安全委員会は)法律的に生きている組織だから仕事をすべきだ。できないなら報酬返上も含めて委員が考えるべきだ」と発言したとも報じられる。
 
 だが、政府は、9月の新組織発足を待つ方針のようだ。
 細野豪志原子力担当大臣は、国会で以下のように答弁している(いずれも6月5日衆議院環境委員会)。
・「大飯原発三号機、四号機以外の原子力発電所については、新しい規制組織が誕生して、そこで判断をしていくというのが適切であると考えております。」
 その一方、
・「私どもは、新しい規制機関ができて新しいルールができなければ、判断はあらゆるものは保留するという考え方はとっておりません。
 新しい法律というのは国会審議をいただかなければなりませんので、そこは一定の時間もかかるし、当然慎重な検討が必要です。そういったことが全て終わる前においても、常に新しい知見ができ、新しい安全についてやるべきことができた場合には、それは、目の前の問題について対応すべくしっかりと対応していく、その考え方に立っております。」
 
 つまり、次の再稼働の判断は、
・9月の規制委員会発足を待って、その判断に委ねる、
・ただし、そこで新たな安全基準を正式に作り直すまで待つというのではなく、規制委員会の判断次第で、暫定基準での再稼働もありうる、
ということだろう。
 
 とすれば、当面注目すべきポイントは、
・まずは、原子力規制委員会の委員人選、
・その後、9月以降に、新たな委員会が問題をどうさばくのかが、問われることになる。
 
さらに、ここにきて新たな要素もでてきた。
伊方原発の“地元”は当たり前のように四国と思われてきたが、対岸の山口県で、知事選(7月12日告示)に出馬表明した飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所長、元・大阪府市特別顧問)が、重大事故時に被害が及ぶことを理由に、山口の発言権を主張。ここでも争点になる可能性がでてきた。
 
 夏から秋に向けて、引き続き要注視だ。
 
(原 英史)
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執筆者プロフィール
原英史(はらえいじ) 1966(昭和41)年生まれ。東京大学卒・シカゴ大学大学院修了。経済産業省などを経て2009年「株式会社政策工房」設立。政府の規制改革推進会議委員、国家戦略特区ワーキンググループ座長代理、大阪府・市特別顧問などを務める。著書に『岩盤規制―誰が成長を阻むのか―』、『国家の怠慢』(新潮新書)など。
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