逆張りの思考
逆張りの思考

五輪よりもビフォア・アフターを楽しむ

執筆者:成毛眞 2016年8月18日
エリア: ヨーロッパ アジア

 今のところ、2020年に予定されている東京五輪が中止になったというニュースは聞こえてこない。あちこちでハレーションを起こしながらも、それに向けての準備は着々と進んでいるのだ。とりわけ建築土木業界はそうだ。新国立競技場の建設だけではない。東京の街が20年を目指してダイナミックに変わり始めている。昔の言葉に「男子三日会わざれば刮目して見よ」というものがあるが、今は、東京湾岸地域は1週間訪れざれば刮目して見よである。雨後の筍のごとく高層建築物が育っている。渋谷駅周辺も要注意だ。完成予想図を頭の中に入れているつもりでも、見るたびにここは何を目指しているのだろうと考えてしまうほどの規模で再開発が進んでいる。
 一方で、都内でも再開発とは無縁の街がある。そういう街に暮らす人は、五輪など無関係と感じているかも知れない。しかしそれは再開発がなく、土木建築的な風景が刷新されないというだけのことであって、五輪に向けて、確実に風景は変わる。なぜならば、タクシーが変わるからだ。
 先日、ワゴンスタイルのタクシーに乗った。車種は日産のNV200で、それをタクシー仕様に改めたものである。これはすでにニューヨークのタクシー、通称イエローキャブに採用されている。ロンドンタクシーのように大きな荷物を載せるスペースがあり、また、車高が高い。たまたま乗ったそのタクシーのドライバーによると、この数年でタクシーはこのNV200か、トヨタが販売するやはりロンドンタクシー型のものに切り替わるという。トヨタにはセダン型のクラウンコンフォートという車があるのだが、これの生産は17年には終わるのだそうだ。あわてて調べてみると、確かにそのような発表がされている。タクシーは3、4年で新車に置き換わるらしいので、今現在は新車のセダン型タクシーも20年には街から消えることになる。
 都内のすべてのタクシーがワゴンタイプに置き換わったら、東京の風景は変わる。東京駅や新宿駅のタクシー乗り場だけでなく、車の通れるありとあらゆる場所の見え方が変わる。それは今のニューヨーク、そしてロンドンを見れば明らかだ。そして私たちは今から、これから生まれてくる人々に「なぜ昔のタクシーは平たいのか」と聞かれる将来を覚悟しておかなくてはならない。
 振り返ると1964年の東京五輪に向けては、東海道新幹線が運転を始め、首都高速が開通し、動線が整った。2020年は、その動線の上を動くものが変わるのだ。64年に整ったOSの上で動くアプリやサービスが、20年に刷新されると言ってもいいだろう。

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執筆者プロフィール
成毛眞 中央大学卒業後、自動車部品メーカー、株式会社アスキーなどを経て、1986年、マイクロソフト株式会社に入社。1991年、同社代表取締役社長に就任。2000年に退社後、投資コンサルティング会社「インスパイア」を設立。2011年、書評サイト「HONZ」を開設。元早稲田大学ビジネススクール客員教授。著書に『面白い本』(岩波新書)、『ビジネスマンへの歌舞伎案内』(NHK出版)、『これが「買い」だ 私のキュレーション術』(新潮社)、『amazon 世界最先端の戦略がわかる』(ダイヤモンド社)、『金のなる人 お金をどんどん働かせ資産を増やす生き方』(ポプラ社)など多数。(写真©岡倉禎志)。
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