クルド独立の夢はまたも遠のいた

執筆者:池内恵 2017年10月18日
エリア: 中東
10月16日、イラク北部キルクークの中心部に入り、クルド旗を降ろすイラク軍兵士 (C)AFP=時事

 

 2017年10月16日は、クルドの歴史に残る日付となるのだろうか。この日にイラク政府部隊と政府を支持する民兵組織「民衆動員隊(PMU)」がキルクークに進軍を始めたことを速報で記しておいたが、翌日にかけて、事態は急速に進展した。

雲散霧消したペシュメルガ諸部隊

 9月25日の独立をめぐる住民投票が行われて以来、緊張が高まる中で、クルディスターン地域政府(KRG)傘下のメディアはキルクーク市民に徹底抗戦を呼びかけていた。しかしイラク政府部隊・民兵組織の侵攻を前にして、クルド人民兵組織ペシュメルガの諸部隊が、ほとんど戦わずして撤退したのである。イラク中央政府側は、短時間でキルクーク西北方面の郊外にあるK-1空軍基地や油田施設を支配下に収めた上で速やかに市内に戦車・装甲車の列を進めた。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
池内恵(いけうちさとし) 東京大学先端科学技術研究センター グローバルセキュリティ・宗教分野教授。1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より東京大学先端科学技術研究センター准教授、2018年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』 (新潮選書)、 本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』(同)などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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