誰知らぬ者なきハリウッドのスター俳優が、61歳で世に問うた初めての小説集だという。さまざまな状況下で、さまざまな役柄を演じてきた経験豊富な才人だから、題材には事欠かないだろうし、ストーリーの組み立ても登場人物の会話も、さぞかし堂に入っているにちがいない。著名人がものした「文章」を前にすると、人はたいていそんな意地の悪い見方をするものだ。実際、ここには語るという行為における大きな自信に裏打ちされた、ぶれのないまなざしが感じられる。しかし同時に、そこから飾りものの虚を取り払った純粋な眼だけを残す慎ましさも稼働していて、これはまちがいなく言葉を扱う作家の属性だと言っていいだろう。
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