リベラルは米社会の求心力となるのか

執筆者:渡辺靖 2022年12月19日
エリア: 北米
人工妊娠中絶の権利を訴えて米連邦最高裁判所前で抗議活動をする人々(C)EPA=時事
 
米中間選挙で民主党が健闘した理由の1つとして、とりわけ若い世代の「中絶禁止」への危機感が指摘されている。それは、左右双方が先鋭的なポピュリズムに向かう米社会の分断の中で、再び「リベラル」な価値観が求心力となり得ることを示す兆候なのか。近著に『アメリカとは何か』(岩波新書)がある渡辺靖・慶應義塾大学教授はこう見る。

 しばしば「分断」や「党派対立」という言葉で形容される米社会。「南北戦争以来最悪」「内戦」といった表現にまで出くわすようになって2、3年になる。とりわけ2021年1月にドナルド・トランプ大統領(当時)の支持者の一部が暴徒化した連邦議会議事堂襲撃事件は衝撃的だった。議会警察によると、連邦議員に対する脅迫件数は2021年1年間で9600件に及び、過去5年間で倍増しているという。言葉(言論)はもはや無力であり、力(実力行使)しかないということだろうか。暴力のハードルが下がっている気がしてならない。

カテゴリ: 政治 社会
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執筆者プロフィール
渡辺靖(わたなべやすし) 慶應義塾大学SFC教授。1967年生まれ。1990年上智大学外国語学部卒業後、1992年ハーバード大学大学院修了、1997年Ph.D.(社会人類学)取得。ケンブリッジ大学、オクスフォード大学、ハーバード大学客員研究員を経て、2006年より現職。専門は文化人類学、文化政策論、アメリカ研究。2005年日本学士院学術奨励賞受賞。著書に『アフター・アメリカ―ボストニアンの軌跡と〈文化の政治学〉』(サントリー学芸賞/慶應義塾大学出版会)、『アメリカン・コミュニティ―国家と個人が交差する場所』(新潮選書)、『アメリカン・デモクラシーの逆説』(岩波新書)、『リバタリアニズム-アメリカを揺るがす自由至上主義』(中公新書)、『白人ナショナリズム-アメリカを揺るがす「文化的反動」』(同)などがある。
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