野球とマイノリティー:WBCで自己のルーツに触れるメジャーリーガーたち

3月8日にワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が開幕した。我らが侍ジャパンは4連勝でいち早く1次リーグを突破。日本は大谷フィーバー、ヌートバーフィーバーに沸いている。とは言えWBCも6年ぶり5回目の開催となり、日本における大会の雰囲気もだいぶ落ち着いてきた。アメリカを筆頭に強豪国といわれる国々がベストメンバーではないことも知られてきたし、全参加国が死に物狂いで優勝を目指す大会ではないことは、普段から野球に興味がある人なら理解しているだろう。
スポーツ紙はある意味で煽るのが仕事なので大仰な見出しを付けるが、日本代表も第1回、第2回大会のような、日の丸を背負って絶対勝たなければならない、失敗できないといった悲壮感は多少なりとも薄れてきた。当時、代表を辞退したヤンキースの松井秀喜が叩かれたが、今ならその選択を理解する声も少なくないのではないだろうか。
あくまでメジャーリーグでの活躍が最優先
アメリカ出身選手にとって、野球の国際大会の位置づけは今も昔も変わらない。2003年秋にアテネ五輪予選のアメリカ代表チームを取材する機会があった。顔ぶれは若手が中心で、ジョー・マウアーやグレイディ・サイズモアといったメジャーデビュー目前の金の卵たちが揃っていた。彼らは一様に星条旗を背負うことの素晴らしさを語ってくれたが、選手としての目標はメジャーに昇格すること、メジャーで成功することだと断言した。五輪本戦は翌年8月に予定されていたが、五輪とメジャー両方から声がかかったらどうするか、との問いに全員がメジャーデビューを選ぶと答えた。結局、この時のアメリカ代表は予選で敗退した。
今大会でアメリカ代表のキャプテンを務めるマイク・トラウトは「これは戦いだ。エキシビションじゃない」と話していたが、多くの選手にとってメジャーリーグでの活躍が最優先であることは、今年も辞退者が続出している事実からも明らかだろう。特に球団が年間を通して投球数を管理し「肩は消耗品」という考えが定着している投手は出場が難しい。トラウトのように野手でスーパースターとして揺るぎない地位を築き、長期間高額の契約が約束され、万が一の故障にも球団が保険をかけてある。そして所属球団が今年ワールドシリーズに手が届く可能性が低い。こうした条件が揃った選手でないと積極的になれない、という状況は今後も続くだろう。
3カ国の出場資格を持つ選手の選択は?
そうは言っても、WBCが野球では数少ない豪華なメンバーが揃う国際大会であることに違いはない。サッカーと比べて野球が盛んな国は少ないが、五輪やワールドカップより出場資格を緩くし、両親の母国や国籍にまで広げることでより多くの選手に出場機会を与えている。ラーズ・ヌートバーは現在の実力でアメリカ代表に選ばれる可能性は低いが、母親の母国である日本代表に参加して活躍している。本来なら彼はセントルイス・カージナルスで外野の一角に定位置を得るべくアピールしなければならない選手だが、それでも侍ジャパンに合流したのは自分のルーツとして日本に強い想いがあるからだろう。アメリカ出身ながら自分のルーツに誇りを感じて他国の代表に参加している選手は他にもいる。

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