日朝首脳会談「岸田政権の本気度と具体策」に探りを入れた北朝鮮

執筆者:礒﨑敦仁 2023年6月12日
エリア: アジア
5月27日、「全拉致被害者の即時一括帰国を求める国民大集会」での岸田総理の挨拶に、北朝鮮が反応した(首相官邸HPより)
岸田総理の日本人拉致問題「国民大集会」での発言に呼応する形で発表された「両国が互いに会えない理由がない」との談話は、北朝鮮の根本的な変化を示してはいない。背景にあるのは、安倍元総理の没後、岸田総理の対北朝鮮政策を知りたいとの思いが強まっていることだろう。

 5月29日に北朝鮮外務省のパク・サンギル次官名義で発表された日朝関係に関する談話には興味深い点も見られたが、拉致問題が「解決済み」であるとの原則を繰り返し、変わるべきは日本だとの主張を明確にしているため、全体としては大きな変化とは言いづらく、前途が厳しいことに変わりない。

主目的は日本の「真意」を質すこと

 談話は、北朝鮮が日本政府やIMO(国際海事機関)に対して軍事偵察衛星の打ち上げ予告を行ったのと同じ日に『朝鮮中央通信』を通じて発表された。北朝鮮国民にとって事実上購読義務が課されている『労働新聞』には転載されておらず、あくまでも日本向けの立場表明である。

 談話は短い文面ながら、平壌の考え方が端的に整理されていた。「日本が何をしようとするのか、何を要求しようとするのかはよく分からない」というのは彼らの本音であろう。岸田文雄総理は、安倍晋三元総理、さらには菅義偉前総理の対北朝鮮政策を踏襲して、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長に向けて無条件での対話を呼びかけているが、北朝鮮としては対話が再開された際に、実質的に進捗しうる「条件」を知りたがっているということだ。対話のための対話は無意味と考える北朝鮮が、岸田総理の真意を質すことに談話の主目的があったものと考えられる。……

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
礒﨑敦仁(いそざきあつひと) 慶應義塾大学教授。専門は北朝鮮政治。1975年生まれ。慶應義塾大学商学部中退。韓国・ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省第三国際情報官室専門分析員、警察大学校専門講師、米国・ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロー・ウィルソンセンター客員研究員など歴任。著書に『北朝鮮と観光』(毎日新聞出版)、共著に『最新版北朝鮮入門』(東洋経済新報社)など。
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