サウジ-イエメン国境の“キリングフィールド”:サウジ国境警備隊、越境するエチオピア人数百人を殺害か
[ドバイ・ハラール(エチオピア)発/ロイター]国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は8月21日、イエメンとの国境にある山岳地帯を越えて入国しようとする何百人ものエチオピア人をサウジアラビア国境警備隊が殺害したと公表した。殺害された中には女性や子供も含まれる。
73ページに及ぶHRWの報告書によると、サウジの国境警備隊は越境しようとするエチオピア人を爆発物で殺害したり、至近距離で射殺したりした。HRWは昨年3~6月までの間にイエメンからサウジアラビアに入国しようとした38人のエチオピア人と、移民の親類縁者4人から証言を得た。HRWによると、人里離れた山岳地帯の道を歩いてイエメンから越境する者への攻撃は、「広範で組織的」であり、「殺戮は今も続いている」。
匿名のサウジ政府高官は、政府のメディア担当者に送った質問に対する答えとして、HRWによる批判は「根拠がなく信頼できる情報源に基づいていない」とメールで回答した。サウジ政府は2022年、国連高官から国境警備隊が越境者を殺害していると非難された際にも疑惑を強く否定している。
エチオピア政府も、イエメン中部と北部を実効支配するイスラム教シーア派武装組織フーシも、ロイターの取材に答えなかった。
アメリカ国務省報道官はこの報告書についてサウジアラビア政府に懸念を表明し、徹底的で透明性のある調査を行うよう申し入れた。
国連の調べによると、サウジアラビアには約75万人のエチオピア人がいると推定される。多くは経済難民で、2020年以降激しさを増す政府とティグレ人民解放戦線との内戦によって北部ティグレ州が荒廃する中、国を脱出しようとする人もいる。
アフリカの角エチオピアから、アデン湾を渡りイエメンを通過して、アラブ社会で最も豊かなサウジアラビアに辿り着くルートは、エチオピアを逃れようとする人々にはよく知られたものだ。
報告書を作るにあたりHRWは、証言に加えて、負傷者や遺体を記録した350のビデオや写真、サウジ国境警備隊の所在を示す衛星写真を検証した。しかしながら、殺害現場とされるイエメン・サウジアラビア国境地域に立ち入ることはできなかった。
報告書を作成したナディア・ハードマンはロイターの取材に対し、「山岳地帯に死体が散らばる“キリングフィールド”を目撃したという人々の証言を聞いた……吹き飛ばされ体が半分になった死体もあったという」と語った。彼女によると、2022年以降、「殺害される人々の数は増加し、殺害手段は明らかに凶悪化している」。
犠牲者や負傷者、墓を掘る様子、山道を逃げ惑う集団など、HRWが提供したビデオをロイターは独自に分析した。道路や建物、山などの形が衛星写真や地形画像と一致したため、ロイターはビデオがイエメンとサウジアラビアの国境地帯で撮影されたことを確認できた。ただし、撮影時期は特定できなかった。
「私は祈りはじめた」
22歳のムスタファ・ソフィアン・モハメドを含む45人のエチオピア人は、昨年7月10日、3日の徒歩の旅を経てサウジアラビアとの国境に近づいていた。その時、サウジ側から銃声と手榴弾が爆発する音が聞こえ、左足首から下が吹き飛んだ。……
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