《洋上風力発電汚職》業界は塚脇正幸氏の呪縛を解けるのか

IN-DEPTH【ニュースの深層】

執筆者:土守豪 2023年11月17日
タグ: 訴訟 脱炭素
日本風力開発の社長宅を家宅捜索し、段ボールを運び出す東京地検の係官[2023年8月5日、東京都千代田区](C)時事
秋本真利衆議院議員が逮捕された洋上風力発電利権を巡る一連の贈収賄汚職事件は、業界団体「日本風力発電協会」(風力協会)にもエネ庁の行政指導が入る形で波紋を広げた。エネ庁には加盟500社以上に上る風力協会を「一企業が牛耳っている」との匿名告発がいくつも寄せられていたという。その「一企業」、元三井物産の塚脇正幸氏(秋本真利被告への贈賄罪で在宅起訴)が設立した日本風力開発は、業界他社の有力幹部を次々と引き抜きながら影響力を拡大した。

『週刊新潮』という雑誌で私の不貞が世の中に明るみになっても、実際に街で後ろ指をさされたのは2回だけですから。世間の噂なんてそんな程度ですよ」。2023年7月下旬の永田町・自民党本部での乙武洋匡氏の講演の一幕だ。会合の主催者は秋本真利衆議院議員で、政治資金集めの後援者向け有料勉強会のゲストとして乙武氏は呼ばれたのだ。秋本氏と乙武氏はインターネット番組での共演を通じて知己を得た。

 2022年7月に実施した参議院選挙の東京選挙区に無所属新人で出馬・落選した乙武氏は、自身の参院選活動の話や、『ハンチバック』で芥川賞を受賞した市川沙央氏が贈呈式あいさつで、障害の有無に関係なく読書ができるよう環境整備を訴えたことについての自身の見解などを述べた。講演で一番聴衆にウケたのが、既婚者だった乙武氏が複数の女性と不倫関係にあることがスクープされた世間の反応についての、冒頭の発言だった。

 横にいた秋本氏は苦笑いして聞いていた。それから2カ月も経たないうちに一連の贈収賄汚職事件で逮捕され東京拘置所に居る秋本氏は今なにを思うか。ちなみに勉強会には秋本氏とつながりが深い河野太郎デジタル大臣も登壇して激励のあいさつを述べていた。

政府が風力協会に異例の行政指導

 秋本氏は洋上風力発電事業を巡る受託収賄の疑いで2023年9月7日に東京地検特捜部に逮捕され、同月27日に起訴された。起訴内容は、風力発電事業大手の日本風力開発(日風開)前社長の塚脇正幸氏から国会質問などを頼まれて、計約7286万円の賄賂を受け取ったとされる。また新型コロナウイルス対策の持続化給付金200万円をだまし取ったとしている。

 一連の贈収賄事件は、風力発電企業一社と自民党の一政治家の問題にとどまらない。風力発電業界全体に影響が及んでいる。経済産業省資源エネルギー庁は23年10月17日、日風開と日本風力発電協会(風力協会)に行政指導を行った。日風開に対しては、発電事業の実施に当たっての法令遵守の対応やコンプライアンス体制などについて、中立的かつ客観的な検証を求めた。風力協会に対しては、同協会の意思決定や活動の在り方について、第三者の関与の下での検証などを求めた。

 日風開については前社長である塚脇氏の一連の贈収賄事件に対する指導であるが、なぜ業界団体である風力協会にも指導が及んだのか。……

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執筆者プロフィール
土守豪(どもりごう) エネルギー・環境ジャーナリスト
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