【THE WIDER IMAGE】メキシコの“大麻修道女”たちは、それを犯罪組織の手から取り戻したい

2024年1月28日
カテゴリ: 社会
エリア: 中南米

ホメオパシー療法に携わる「シスター・ベルナルデ」は、ガンや関節痛、不眠症の患者に大麻を処方しているという[2023年9月3日、メキシコ中部](C)REUTERS/Raquel Cunha

メキシコ中部のある村のはずれでは、満月のたびに、修道女姿の女性たちが燃え盛る火の周りに集まり、燃やしたセージで身を清め、月や動物、植物に感謝を捧げる。そしてジョイントを深く吸い込み、大麻の煙を炎の中に吹き込む。

[ロイター]身なりは修道女のそれであるが、彼女たちはカトリックでもその他の宗派に属するものでもない。2014年に設立された「シスターズ・オブ・ザ・ヴァレー」という国際的なグループの一員で、大麻の治癒力の福音を広めることを誓っている。

 約20の州で娯楽用大麻が合法化されているアメリカでは、CBDティンクチャー、オイル、クリームをオンラインで販売し、昨年は50万ドル以上を売り上げた。しかしメキシコでは、大麻は法的にはグレーゾーンにあり、その生産の多くはいまだに犯罪組織と結びついている。製品の売上は米国のシスターらに比べればほんのわずかで、年間1万ドル程度である。麻薬戦争が国を荒廃させ、キリスト教が社会に浸透しているメキシコにおいて、大麻を吸う修道女の姿はむしろ反逆を示すのだ、と彼女たちは言う。

 インスタグラムを中心としたソーシャルメディアに頻繁に投稿し、ネット上では目立つ存在だが、彼女たち(総勢5人)は営業場所について多くを語ることに慎重だ。1部屋だけが完成しているコンクリート造り2階建ての隠し店舗で商売をしており、ロイターが訪ねた際には店のカーテンは引かれたままだった。大麻の束は、洗濯物干しやストーブ中など、隠し場所で乾燥されていた。

「シスターズ・オブ・ザ・ヴァレーは、ここメキシコでは他所とまったく違った文脈の中に存在している。なぜなら、この国は宗教色が強いし、大麻が犯罪組織とつながっているからだ」。そう話すのは、ネット上では 「シスター・ベルナルデ」というニックネームを使っているメンバーだ。彼女は報復を恐れて名前を明かさないように求めた。本業のホメオパシー療法では、ガンや関節痛、不眠症の患者に大麻を処方しているという。彼女は、「私たちは、大麻を麻薬組織から取り戻したい」と言う。

大麻草の剪定をする34歳のアレハリ・パスは化学者であり大麻研究家でもある[2023年9月2日、メキシコ中部](C)REUTERS/Raquel Cunha

収穫した大麻のチェックをする「シスター・キカ」[2023年9月2日、メキシコ中部](C)REUTERS/Raquel Cunha
大麻草を運ぶ「シスター・ベルナルデ」[2023年9月3日、メキシコ中部](C)REUTERS/Raquel Cunha

 シスターズ・オブ・ザ・ヴァレーは、中世の宗教運動「ベギン運動」に倣ったものである。独身女性で構成されたこのグループは、霊性、学問、慈善に献身したが、正式な誓いは立てなかった。メンバーたちは、修道服は結束と大麻への敬意を示すものだと世界に向けて唱えているが、それがメディアの注目を集めることも知っている。……

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