AUKUSが「ファミリー・ビジネス」である理由

執筆者:鶴岡路人 2024年5月30日
タグ: AUKUS
エリア: オセアニア
2023年10月のアンソニー・アルバニージー豪首相訪米時もAUKUSの協力は主要なテーマとなった[ホワイトハウスでの国賓晩餐会にアルバニージー首相(中央左)とパートナーのジョディ・ヘイドン(左)を迎えたジョー・バイデン米大統領(中央右)とジル・バイデン大統領夫人(右)=2023年10月25日、米国・ワシントンDC](C)Sipa USA via Reuters Connect
民族や文化的な側面で深く繋がる米・英・豪・カナダ・ニュージーランドによるインテリジェンス協力の枠組ファイブ・アイズ。その中核3カ国で構成されたAUKUSの本質は、「ファミリー・ビジネス」として捉える視点が必要だ。家族ゆえの内部の結束、あるいは高くなりがちな域外との垣根は当事者国に意識されにくい部分だが、ファイブ・アイズ以外の諸国との協力が一筋縄にはいかない事情もここに根差す。AUKUSをめぐる日本の議論は政治的な思惑も映して混乱気味だが、まずは正しい認識から出発する必要があるだろう。

 2021年9月に米国、英国、豪州の3カ国による安全保障協力枠組みであるAUKUSが発表されてから、それに関する国際的関心は尽きることがない。AUKUSの第1の柱である米英両国による豪州の原子力潜水艦取得のための協力については、米国での原潜建造能力の逼迫が大きな問題として議論されている。AI(人工知能)やサイバー、量子などの先進防衛技術に関する第2の柱に関しては、日本との協力の可能性などが言及されることが増えている。

 以下では、そうした最新の情勢からは一歩退き、AUKUSの本質を考えてみたい。結論からいえば、AUKUSは「ファミリー・ビジネス」として捉えるのが、その性質を最も端的に示す方法だ。内部の結束が強固である反面、域外との垣根が高くなりがちであるのも、家族という性質に沿って考えると理解しやすい。さまざまな要素を順番に検討してみることにしよう。

「同盟ではない」論が含む政治的メッセージ

 AUKUSが何であり何でないのかについては、いまだに論争が続いている。この観点では、同盟であるのか否かが特に問われてきた。

「同盟ではない」という観点では、AUKUSがあくまでも技術協力促進の枠組み(technology accelerator)だと指摘される。ただし、こうした主張は、必ずしも額面どおりにとってはならない。というのも、そこには政治的メッセージが含まれることが少なくないからである。純粋に技術的側面を強調する目的である場合もあるが、AUKUS参加によっても主権が損なわれることはなく、米国への隷属でもないという、想定される批判に先回りして応えるという意図も指摘できる。

 この傾向は特に豪州で強く、実際、AUKUSをめぐっては、豪州の主権をいかに確保できるかが問われ続けてきた。この観点では、AUKUSは従来以上のコミットメントを伴うような新たな同盟ではなく、技術的協力に「すぎない」とする方が都合がよい。

「同盟ではない」論には、AUKUSへの批判的、ないし懐疑的見方が根強い東南アジア諸国への対応という外交的考慮も指摘できる。新たな同盟だとすれば角が立つために、そうしたイメージを和らげる狙いがありそうだ。

「同盟未満」ではなく「同盟より上」

 他方で、AUKUSは単なる技術協力ではなく、戦略的決定に基づく同盟のさらなる進化・深化であることも事実である。……

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カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
鶴岡路人(つるおかみちと) 慶應義塾大学総合政策学部准教授、戦略構想センター・副センター長 1975年東京生まれ。専門は現代欧州政治、国際安全保障など。慶應義塾大学法学部卒業後、同大学院法学研究科、米ジョージタウン大学を経て、英ロンドン大学キングス・カレッジで博士号取得(PhD in War Studies)。在ベルギー日本大使館専門調査員(NATO担当)、米ジャーマン・マーシャル基金(GMF)研究員、防衛省防衛研究所主任研究官、防衛省防衛政策局国際政策課部員、英王立防衛・安全保障研究所(RUSI)訪問研究員などを歴任。著書に『EU離脱――イギリスとヨーロッパの地殻変動』(ちくま新書、2020年)、『欧州戦争としてのウクライナ侵攻』(新潮選書、2023年)など。
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