【特別インタビュー】パスカル・ペリノー仏パリ政治学院名誉教授(下)――欧州政治の中道主導は変わらない

執筆者:国末憲人 2024年5月31日
エリア: ヨーロッパ
国民連合の若き党首ジョルダン・バルデラは、2027年次期大統領選でルペンの候補者としての地位を脅かすようになった[欧州議会選の他党筆頭候補者とテレビ討論会に臨むバルデラ(左)=2024年5月27日、フランス・パリ](C)AFP=時事
マクロン大統領の2期目の任期は2027年に終わる。28歳の新党首ジョルダン・バルデラを押し出す国民連合に対抗し、マクロンの政党「ルネサンス」からも35歳のガブリエル・アタルが首相に就いた。こうした世代交代戦術は世代間対立と紙一重、3年後の大統領選までには紆余曲折が予想される。一方、世論調査はフランスはじめ欧州各国でのナショナリスト、ポピュリスト勢力の大幅な伸張を示唆しているが、各国ナショナリストの連携は原理的にも難しい。EUレベルの舵取りについては、中道主導の構図が変化するとは思えないとペリノー氏は言う。(聞き手=国末憲人)

 

国民連合の世代間対立で「ルペン批判」が強まる可能性も

――国民連合内部では、バルデラが人気でルペンを上回っているとも聞きます。

 ルペンは党を、この極めて若い人物に委ねました。党内の世代交代を狙ってのことです。ただ、この試みは党内の世代間対立を引き起こしました。人気を高めたバルデラは、2027年次期大統領選でルペンの候補者としての地位を脅かすようになったのです。

 ルペンは「私が大統領になったら、首相はバルデラだ」と言明することで、この危機を乗り切ろうとしました。ただ、大統領選が近づくにつれてバルデラ人気がさらに高まると、党内でルペンに対する批判が強まる可能性もあります。何せ、彼女はすでに大統領選で3回落選しているのですから。

――フランスの右翼としては、前回大統領選で元ジャーナリストのエリック・ゼムールが立候補し、一時は国民連合を脅かすと言われました。

 ゼムールが自ら立ち上げた極端な右翼政党「レコンケート」(領土回復)は、確かに一時、国民連合にとって脅威となりました。ただ、国民連合が割と早い時期にその芽を摘んだため、現在では5~6%の支持率にとどまり、主流になり得ていません。ゼムールは挑発を繰り返し、その言説は過激すぎて、時に差別的でした。右翼支持層は自らの1票の効率を考えて、ゼムールより国民連合に投票するのが有効だと見なしたのです。ゼムールは、国民連合の勢いをそぐことができなかったのでした。

マクロン後継はフィリップかアタルか

――マクロンは2027年に2期目の任期を終えます。後継はどうなるのでしょうか。

 マクロンの政党「ルネサンス」はソーシャルメディア空間の政党にとどまっており、現実に根ざした政党とはなっていません。これは彼にとっての失敗です。

 世論調査でマクロンの継承者となり得るのは、かつて彼の下で首相を務めたエドゥアール・フィリップです。彼は、自らの政党「オリゾン」を創設し、穏健右派として多くの地方議員も抱えています。フィリップ自身がルアーブルの市長を務めていますし。

 彼は、マクロンの直接の後継者ではありませんが、現在のところもっとも有力な地位につけています。

 ただ、前回の内閣改造で、マクロンは極めて若いガブリエル・アタルを首相に任命しました。35歳のアタルは急速に人気を高め、世代交代を印象づけました。ルペンがバルデラを使ったように、マクロンもアタルを使ったのです。

 アタルは今や、「ルネサンス」で唯一、世論に影響を持ちうる政治家です。すなわち、今は2つの可能性が考えられる。フィリップかアタルかです。

ルペンの評価に新たな現象、「共和主義者」と社会党の現在は?

――その2人のいずれかだと常識的な大統領となりそうですが、右翼のルペンやバルデラが大統領に就く可能性もあるでしょうか。

 長い間それは不可能だと思われていました。ルペンは大統領選で、健闘はしても、決選を制することはできない。多くの人は、「ルペンに投票する」と口にするものの、フランスの舵取りを彼女に委ねようとはしなかったのです。

 この壁は現在も存在しています。ただ、徐々に浸食されている。国民連合は次第に、他の政党と同じと見なされるようになりました。……

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
国末憲人(くにすえのりと) 東京大学先端科学技術研究センター特任教授、本誌特別編集委員 1963年岡山県生まれ。85年大阪大学卒業。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。パリ支局長、論説委員、GLOBE編集長、朝日新聞ヨーロッパ総局長などを歴任した。2024年1月より現職。著書に『ロシア・ウクライナ戦争 近景と遠景』(岩波書店)、『ポピュリズム化する世界』(プレジデント社)、『自爆テロリストの正体』『サルコジ』『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(いずれも新潮社)、『イラク戦争の深淵』『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『巨大「実験国家」EUは生き残れるのか?』(いずれも草思社)、『ユネスコ「無形文化遺産」』(平凡社)、『テロリストの誕生 イスラム過激派テロの虚像と実像』(草思社)など多数。
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