日本は世界で6番目の広さの排他的経済水域(EEZ)を有している。海洋に関するビジネスといえば漁業、海運、インフラ、造船などが挙げられるが、日本の政府や事業者は広大なEEZを活用しきれているのであろうか。海外では洋上風力発電や海洋ロボティクスといったビジネスが生まれている中、日本は海外勢に遅れることなく、成長領域であり経済安全保障上も重要な海洋におけるビジネスを振興することが不可欠である。
海洋におけるビジネスは、既存技術ではコストがかかり過ぎるなど事業性に関するリスクが比較的高くなりがちであり、推進する上での課題が大きい。これらの課題を解消するために、アナロジー思考を用いて米国の宇宙政策とデュアルユース(軍民両用)に着目する。米国の宇宙政策からはベスト・プラクティスとしての教訓を得て、デュアルユースからは産業振興策としての可能性を探索する。
一般に、宇宙に関しては先端的な技術・取組が導入されているだけでなく、成長市場として多くの人々の興味を惹いている。その先進事例は官民どちらのケースをとっても米国にあるであろう。デュアルユースについては、戦後日本の一貫した安全保障に対するネガティブな空気が解消されつつあることから、公平な目で見た可能性の分析が受け入れやすくなってきたといえる。
SpaceX飛躍に結びついた官民連携
米国の宇宙政策については、産業振興と官民連携の観点から、NASA(アメリカ航空宇宙局)によるCOTS(Commercial Orbital Transportation Services 商業軌道輸送サービス)プログラムに着目した。COTSとはスペースシャトルの退役後、国際宇宙ステーション(ISS)への補給を目指し、低軌道への人員物資の輸送を民間企業に委ねていくプログラムである。民間企業がISSへの補給サービスを行うことで、NASAは宇宙探査そのものにより注力できるようになる。
COTSはNASAのジョンソン宇宙センターに設置されたC3PO(Commercial Crew & Cargo Program Office 商業乗員・貨物プログラム室)が担うことになった。C3POは3つの目標を設定しており、それぞれ、
① 宇宙産業を活性化するための投資を行い、米国の宇宙探索政策を実行する。
② 信頼性が高く、費用対効果の高い低軌道へのアクセスを実現することを目標に、米国企業による人員物資の輸送能力の実証を促進する。
③ 商業宇宙輸送サービスを官民で利用できるような市場環境を構築する。
というものであった。COTSの帰結として、SpaceXの飛躍に大きく貢献することになった。
NASAが2014年5月に発行したCOTSに関する報告書(“Commercial Orbital Transportation Services : A New Era in Spaceflight”)は宇宙業界では「ファイナルペーパー」と呼ばれ、非常によく知られた存在であるそうだが、他の業界での知名度はそこまでではない。業界に閉じず、アナロジー思考で別の分野のベスト・プラクティスを探ってみると、とてもよい事例が見つかるものである。
ここでは、同報告書に基づき、COTSの成功につながった五つのポイントを紹介する。
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