トランプ関税はブラジル次期大統領選にも「燃料投下」

Foresight World Watcher's 3 Tips

執筆者:フォーサイト編集部 2025年7月12日
エリア: 北米 中南米
トランプ政権との関税をめぐる軋轢はブラジル国内の分断をさらに深刻化させかねない[トランプ米大統領とボルソナーロ前大統領を「人民の敵」と糾弾するプラカードを掲げた男性=2025年7月10日、ブラジル・サンパウロ](C)AFP=時事

 7月7日に日本など14カ国に新たな関税率を適用(発動は8月1日)すると発表した二日後、ドナルド・トランプ米大統領はさらに8カ国にも同様の措置をとりました。この8カ国の中でも突出しているのは、ブラジルに対する50%です。

 米国はブラジルに対して、実は貿易赤字ではありません。そのため4月2日に公表された「相互関税」の税率は、全世界を対象にした基本税率の10%だけでした。これが一気に跳ね上がった背景には、まずは7月6~7日にブラジルがリオデジャネイロで主催したBRICS首脳会議の反米的な声明や、ブラジルと中国の経済的連携が急速に深まっていることがあるでしょう。

 ただ、もう一つ注目しておきたいのがブラジル国内政治への関与の意図です。ブラジルの前大統領ジャイール・ボルソナーロ氏は親トランプ姿勢で知られますが、現在、2022年の大統領選での敗北後にクーデターを企てた疑いで起訴されています。トランプ氏はこれについても「魔女狩りだ」と非難、自身のSNSには「LEAVE BOLSONARO ALONE!(ボルソナーロに手を出すな!)」とも投稿しました。米国とブラジルの対立の根本的な原因は貿易ではなく、多国間主義を推進するルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ現大統領に抱いた不満だとの指摘もあります。

 ブラジルの次期大統領選挙は来年10月の予定です。ボルソナーロ氏は立候補資格を剥奪されているものの、トランプ大統領を後ろ盾に得てこの処分を覆し、出馬に意欲を示しているとされます。一方のルラ大統領も再選を目指しますが、高インフレ、犯罪率の上昇、政府の透明性への不信などから支持率は低下。こうした地合いがある中での「50%関税」の通知は、ブラジル社会の政治的対立にも大きな影響力を持つでしょう。ブラジルの大統領選挙は、事実上、もう始まっているのかもしれません。

 政治状況への影響という点では、イーロン・マスク氏が結成したという「アメリカ党」も見逃せません。景気悪化シナリオを巧みに躱している米国経済の分析も加え、フォーサイト編集部が熟読したい海外メディア記事3本。皆様もよろしければご一緒に。

Lula fala em negociar tarifas de Trump, mas promete reciprocidade se diálogo falhar【Mariana Brasil, Catia Seabra, Nathalia Garcia/Folha de São Paulo/7月10日付】

「『トランプ大統領からの書簡は偽物ではないかと、最初は考えた。というのも、他国の大統領への手紙を[トランプ]大統領のウェブサイトを通じて送るというのは通例にないことだから』と彼は語った。これは、アメリカからの手紙が[トランプが立ち上げた]SNS、トゥルース・ソーシャルで公開されたことに触れた発言だ」
「『彼はブラジルの法制を尊重すべきだ、私がアメリカの法制を尊重するように。トランプがこれまでやったことをブラジルの首都でやったら、ボルソナーロのように起訴されるだろうし、逮捕される可能性もある。なぜなら、彼は民主主義を傷つけ、憲法を傷つけたからだ』」
「『彼が他国をこんなふうに侮辱することがないよう、その点[米国がブラジルに対して貿易赤字を抱えているといった、書簡に盛り込まれた事実誤認]を説明する知恵を持ったスタッフがないのだろうか?』」

 こうした発言の主は、ブラジルのルラ大統領。ブラジルからの輸入に50%もの関税を適用すると通告する書簡をトランプ大統領が発したことを受け、地元テレビのインタビューで語った言葉だ。

カテゴリ: 経済・ビジネス 政治
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