ヴィクトリヤ・ロシナ(1996-2024)が収容されたロシア・ロストフ州管轄下の公判前拘置所「SIZO-2」、一般的に「タガンログ第2刑務所」と呼ばれる施設は、劣悪な環境と暴力的な運営で悪名高い。収容者が行方不明になることから「ブラックホール」と呼ぶメディアもある1。
刑務所は、ロシア・ウクライナ国境から50キロほどロシア側に入ったアゾフ海沿岸の街タガンログに位置している。ロシア南西部の中心都市ロストフからは70キロほどの距離である。人口約25万人で、作家アントン・チェーホフの出身地として知られる。
刑務所はもともと、19世紀初頭につくられた未成年者用の収容施設だったが、2022年のロシア軍によるウクライナ全面侵攻以後、ウクライナ兵捕虜に対する施設として使われるようになった。特に、国境を挟んでウクライナ側に位置する都市マリウポリの防御に携わった通称「アゾフ連隊」のウクライナ兵が多数収容された。
タガンログ第2刑務所の恐怖
調査報道専門ニュースサイト『スリドストヴォ・インフォ(調査情報)』の記者ヤニナ・コルニイェンコ(29)は、ヴィクトリヤがここに収容される以前の2022年、この刑務所に入れられていた元ウクライナ軍の女性海兵隊員インハ・チェキンダにインタビューをした2。
チェキンダは妹とともに2022年2月からのマリウポリ攻防戦に参加し、2人とも捕虜になった。2人は当初、占領下のドネツク州オレニウカの施設に収容された後、4月19日にタガンログ第2刑務所に移送された。
最初の2日間は検査を受け、からかわれる程度だったが、3日目に上官の男が彼女の髪の毛をつかんで監房から引きずり出し、腕をねじったり耳をたたいたりの暴行をした。彼女を事務所に連れて行って言った。
「私のコードネームは『死』だ。私の顔を思い出しながら残りの人生を過ごせ」
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