トランプ大統領への“おもてなし”、アジア各国には高くついた?

Foresight World Watcher's 6 Tips

執筆者:フォーサイト編集部 2025年11月3日
各国との合意は、多くの詳細が依然として不明[李大統領(右)から国宝「天馬塚金冠」のレプリカを贈呈されたトランプ大統領(左)=2025年10月29日、韓国・慶州](C)AFP=時事

 

 日本でプレゼントされた金箔ゴルフボール、韓国では黄金の王冠レプリカ。ドナルド・トランプ米大統領が10月26日から行った5日間のアジア歴訪を、英エコノミスト誌は「トランプの後をきらめき(sparkle )が追いかけるようだった」と表現しました。帰国後すぐに開催したハロウィンパーティーのテーマも「グレート・ギャッツビー」だったそうで、政府閉鎖のあおりでSNAP(米国版の生活保護制度)が停止される直前だったこともあり、キラキラ尽くしは民主党に格好の攻撃材料を与えていました。

 ただ、代表作「グレート・ギャッツビー」をはじめ、スコット・フィッツジェラルドの小説で主人公が栄華を極める描写は破滅の起動装置のようなもの。トランプ外交が破滅するとは言いませんが、アジア歴訪の底流に強い緊張感が流れていたのは確実でしょう。

 日韓との結束を強調しつつ見据えていたのは中国。習近平国家主席との会談直前に、トランプ氏は「G2が間もなく開催!」と投稿しました。「G2=Group of Two」は、米中二極体制で世界を主導する構想で、初期のオバマ政権がこれを模索し、後に否定したという経緯があります。米国の大統領が公式に「G2」を語るのは初ともみられ、まさに最上級のリップサービスです。

 その米中首脳会談は、中国がレアアース輸出規制の停止や大豆の購入再開を打ち出し、トランプ政権にとってかなりの成果となりました。ただ、双方が懲罰的措置を1年間見送るなど、これはちょうど1年後に控えた米中間選挙までの暫定休戦と考えられます。議論の俎上から意図的に外されたと考えられる台湾問題を筆頭に、中国側がタイミングを計って再びカードを切ることもありえます。

 単なる問題先送りか、あるいは長期的な競争関係を前提にしたディールなのかをよく考える必要がありそうです。いずれにせよ、その“G2”に翻弄された東アジア・東南アジアの各国にとっては、高くついたトランプ来訪だったというのが多くの海外メディアの見立てのようです。

 ほかに、トランプ氏が唱え始めたナイジェリアでの軍事行動、AI(人口知能)がホワイトカラーに左派ポピュリズムを生む?、ポスト・リベラリズム時代の軍隊とは? といった論考も加えて、フォーサイト編集部が熟読したい海外メディア記事6本。皆様もよろしければご一緒に。

 AIに関する論考は、2日の日経電子版に公開されたこの「米国のブルーカラービリオネア」を取材した記事とあわせてお読みいただくとよさそうです。

Asia adapts to Donald Trump's transactional diplomacy【Economist/10月30日付】

「[ドナルド・]トランプ氏は歴訪の間、寛大な態度でホスト国を称賛し、アジアへの米国のコミットメントを繰り返し表明した。地域の各国政府にとって、不和を避け祝福を受けることは、デザートにも劣らぬ甘美な安堵だった。しかし、これは成功と呼ぶには達成度が低く――費やしたコストは、目を疑うような投資公約、継続する関税、不確実性など、高くついた」
「[ASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議の開かれる]マレーシアにトランプ氏が現れるか否かは、自身が仲介したカンボジアとタイの停戦合意調印式を主宰できるかどうかにかかっていた。日本では高市[早苗]氏が、トランプ氏の熱望するノーベル平和賞への推薦を約束。[韓国での晩餐会で供された、金で飾られた]ブラウニーケーキは『平和の使者のデザート』と名づけられ、『PEACE!』と刻まれたプレートで飾られた」

 米大統領の東南・東アジア歴訪(ただし、ASEANおよびAPEC(アジア太平洋経済協力)の両首脳会議は欠席)をこのように振り返るのは英『エコノミスト」誌の「ドナルド・トランプの取引型外交に適応するアジア」(釜山/クアラルンプール/東京発10月30日付)だ。

 そこで紹介される各国のさまざまな供応や取引のなかには、「安全保障を米国との同盟に依存する日本と韓国」について次のようなくだりもある。

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