アフリカ南東部モザンビークでは、大規模な天然ガス開発が進められている。しかしガス生産地のカーボ・デルガード州では、2017年にイスラーム過激派の活動が顕在化して以降、治安状況の悪化が続いている。2021年3月には過激派が、JOGMECや三井物産など日本企業も参加する液化天然ガス(LNG)事業サイトへの進攻を試み、事業を中断に追い込んだ。その後、4年半を経た現在も過激派は勢力を維持している。
一方、2025年1月の米国のトランプ政権発足を契機に、モザンビークのLNG事業の再開に向けた動きが加速している。10月末には、事業者側が同国政府に対して不可抗力宣言の解除を発表した。これによりプロジェクトの再開が現実的に視野に入った。日本はモザンビーク産LNGの輸入拡大を予定していることから、事態の行方が注目される。
本稿では、まずモザンビークでイスラーム過激派が台頭した背景を整理し、次に各国がLNG事業の再開を急ぐ理由について考察する。そして、日本のLNG調達政策の行方を展望する。
新たなガス生産地として注目される北部カーボ・デルガード州
カーボ・デルガード州はモザンビーク北部に位置し、タンザニアと国境を接している。モザンビーク全体ではキリスト教徒が多数派であり、イスラーム教徒は約19%にとどまるが、同州では人口約230万人のうち半数以上(約58%)をイスラーム教徒が占めている。経済的には、他州に比べ開発が遅れ、貧困が深刻な地域である。
一方、2010年に州沖合で大規模な天然ガス埋蔵量が確認されて以来、カーボ・デルガード州は新たなガス生産地として注目を集めてきた。ガス輸出国フォーラム(GECF)の統計によると、天然ガス埋蔵量は2023年時点で約650BCM(BCMは10億立方メートル)と推定され、可採年数(R/P比)は約73年に達することから、モザンビークは将来的に有望な産ガス国となる潜在力を備えている。
カーボ・デルガード州ではこれまでに4つのLNGプロジェクトが展開している。現在稼働中なのは、ロブマ海盆の鉱区エリア4に位置し、イタリアのエニ社が運営する「コーラル・サウスFLNG(浮体式LNG生産施設)」事業である。同事業は年産340万トンのLNG生産能力を有し、2022年11月に輸出を開始した。
この他、2019年に最終投資決定(FID)済みの鉱区エリア1の「モザンビークLNG」事業(オペレーター:フランスのトタルエナジーズ社)、2025年10月2日にFIDが下された鉱区エリア4の「コーラル・ノースFLNG」事業(オペレーター:イタリアのエニ社)、そして2026年中にFIDが見込まれる「ロブマLNG」事業(オペレーター:米国のエクソンモービル社)が計画されている。これら4事業のLNG生産能力を合計すると、年間約3500万トンに達する見通しである。
「イスラーム国」勢力として活動する過激派
モザンビークのLNG事業の進展を妨げているのは、イスラーム過激派の存在である。カーボ・デルガード州で過激派が台頭した背景には
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