和平協議「米国案」でウクライナが失いロシアが得るもの

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執筆者:フォーサイト編集部 2025年11月30日
エリア: ヨーロッパ
ウクライナは米国に対し“レッドライン”を改めて示した[キーウを訪問したダニエル・P・ドリスコル米陸軍長官(右)らと会談したゼレンスキー大統領=2025年11月20日](C)UKRAINIAN PRESIDENTIAL PRESS SERVICE / AFP=時事

 ウクライナとロシアの和平協議が新たな局面を迎えています。モスクワで今週開かれる予定の米ロ高官協議を前に、ウクライナのルステム・ウメロフ国家安全保障・国防会議書記らが訪米。本日30日にマルコ・ルビオ国務長官、スティーブ・ウィトコフ中東担当特使らと交渉の方針を協議します。

 事態を大きく動かしたのは、11月19日にメディア報道で表面化した米トランプ政権による28項目の和平案です。ルビオ氏、ウィトコフ氏に加え、ドナルド・トランプ大統領の娘婿であるジャレッド・クシュナー氏が作成したとされますが、ロシア語特有の言い回しを含むなど、ロシアが強く関与したと見られます。実際、28項目の中にはウクライナ東部ルハンスク州、同ドネツク州の割譲や軍の削減など、ロシアに有利な内容が多く含まれ、ウクライナは対案を作成した欧州とともに、米国との協議を続けてきました。

 協議の結果、当初の28項目は修正や削除を施され、現状では19項目になっているとも伝えられます。ただ、一方のロシアはセルゲイ・ラブロフ外相が、8月に開催されたプーチン-トランプ会談の合意事項が消去されるなら拒否すると明言しています。

 和平を成立させる核心要素は、戦況に応じても変化しうるウクライナとロシアの“レッドライン(譲れない一線)”に加え、ウクライナの安全の保証やロシア凍結資産の処理などでこの戦争の当事者となる米国、欧州の意向にも大きな影響を受けることになります。

 その意味で、28項目の和平案およびそれに対するウクライナ、欧州の反応には、現時点の各当事者の意思が鮮明に映し出されているでしょう。今回は米シンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)が公開した、28項目と欧州の対案を詳細に分析したレポートに注目しました。

 ほかには、まさにその欧州の対案を作成した「E3(英国・フランス・ドイツ)の新たな三極リーダーシップの意義と限界を捉える英「エコノミスト」誌の記事や、軍事・安全保障を専門とするオンラインメディア「ウォー・オン・ザ・ロックス」にも登場したAI(人工知能)懐疑論など、フォーサイト編集部が熟読したい海外メディアから5本。

 皆様もよろしければご一緒に。

 

The Unfinished Plan for Peace in Ukraine: Provision by Provision【Mark F. Cancian, Maria Snegovaya/Center for Strategic & International Studies/11月24日付】

「感謝祭まで。それが無理ならクリスマスまで」――米国の政治や外交などにおいて、解決を急ぎたいのに夏休み明けに残った案件を処理する目途として、よく掲げられる〆切だ。だが、米国がロシア・ウクライナ戦争終結に向けて28項目の和平案を策定したと報じられたのが11月19日。当初、トランプ政権は「感謝祭[今年は11月27日]まで」の合意をウクライナに求めたとされるが、さすがに1週間で結論を出せるものではない。

「結論としては、感謝祭までに合意が成立することはない。しかし、ついに合意が成立するに至るプロセスは存在しているのかもしれない」
「トランプ大統領は現在ウクライナに対し、合意への署名に向けて圧力をかけているが、議会関係者、欧州諸国、ウクライナ国民、評論家らの反応は辛辣で、彼らはこの計画を親ロシア的と非難している。さらに、この計画には未解決の問題点、矛盾点、根拠のない前提があまりにも多く、現状の形で実施することは不可能だ」
「これは合意ではないが、合意に至る出発点となりえる。実際、欧州諸国は28項目の独自案[米国案への対案]を提示すると同時に、以前作成された24項目の提案も回覧されている。この欧州版[の合意]は親ロシア色が薄く、双方が合意できる内容に近いかもしれない。現在、米国とウクライナが作成した19項目の提案が存在するとの報道もある」

 今の状況をこのように捉えたうえで、米国案と欧州による対案について検証する論考が、米戦略国際問題研究所(CSIS)サイトに登場した。同研究所で防衛・安全保障部門の上級顧問を務めるマーク・F・キャンシアンと欧州・ロシア・ユーラシアプログロラムの上級研究員、マリア・スネゴヴァヤによる「未確定のウクライナ和平案 条項ごとに検証」(11月24日付)だ。

カテゴリ: 軍事・防衛
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