「相互依存関係の武器化」で中国に押し負けたトランプ政権に明確な課題
第二次トランプ政権の下での初めての米中首脳会談は、10月末に釜山で開催され、貿易紛争をめぐり揺れ動いた関係を鎮静化する上で一定の成果をあげた。しかし、対中強硬措置は、不公正貿易慣行などの懸案について中国側の譲歩を引き出すための手段であったはずであるが、釜山での合意は本来の政策目的実現に向けた努力としては成果に乏しいものであった。そうした意味で、これまでの米中間の折衝は一周回って元に戻った印象を禁じ得ない。
また、今回の交渉を巡る力学を見ると、第一次トランプ政権当時に比べ、中国側の攻撃的な姿勢が目立った。第一次政権においては、中国側は、米側の強硬姿勢に対して一定の輸入拡大策をとることで事態の収拾を図る受け身の姿勢をとっていたが、今回は米側の措置に対して徹底抗戦を試みたばかりでなく、レアアースに関する輸出規制を通じて米側の脆弱性を印象付けることに成功した。
とは言え、今回の交渉は、トランプ政権が公約実現を急ぐ中で行われたもので、政権の対中政策の方向性についてあまりにも多くを読み取ろうとするのは適当ではあるまい。今後トランプ政権が来年春に予定される大統領の中国訪問に向け対中戦略をどう練り上げていくか引き続き注目を要する。また、より大きな視点から見ると、今回の交渉は、米中双方が相互依存関係を「武器化」した点を特徴としているが、こうした動きが中長期的に米中関係に与える影響についても注視していかねばならい。
本稿では、このような視点を踏まえながら、第二次トランプ政権下での米中関係の動向を評価するとともに、今後の方向性を占うこととしたい。
三つのフェーズを経た貿易対立
まず、第二次トランプ政権発足後の米中関係の推移を簡単に振り返ると、①対抗措置のエスカレーション、②安定化努力、③首脳会談に向けた準備、の三つのフェーズに整理できよう。
①においては、2月初めに米側が不法薬物「フェンタニル」の規制不備を理由として10%の対中関税を導入したことを嚆矢に、対抗措置の応酬が始まり、4月上旬に米側が「相互関税」の一環として34%の追加関税を導入すると、対立は一気にエスカレートし、お互いが125%という、貿易取引を実質的に停止しかねない水準まで税率を引き上げる事態に至った。
②においては、市場の懸念などを背景に、関係安定化に向けた対話が始まり、5月上旬にジュネーブにおいて開催された閣僚会議で高率の関税について90日間のモラトリアムが成立する。この合意は、6月初めの首脳電話会談を経て、同月のロンドンにおける閣僚会議で達成された「枠組み合意」につながり、対立は小康を得る。
③においては、来るべき対面での首脳会談に向けた駆け引きが展開される。米側は、当初APEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議におけるバイ会談の実現を確保するため、NVIDIAによるH20半導体の輸出認可や頼清徳台湾総統の米国立ち寄り拒否など、宥和的措置を打ち出した。しかし、9月中旬の電話首脳会談で韓国での会談の実施が確認された後は、その成果をにらんだせめぎ合いが始まる。この間、米側が輸出規制の適用範囲を拡大する「関連事業体ルール」を打ち出したのに対し、中国側がレアアースに係る輸出管理の強化で対抗するなど、緊張の高まりもみられたが、10月下旬のマレーシアにおける閣僚会議で首脳会談のシナリオについて大筋の合意が実現する。
振出しに戻った交渉
釜山における首脳会談の結果については、米中双方から一方的な発表が行われただけで、合意の詳細については明らかになっておらず、むしろ実体として首脳間の合意自体が詳細を詰め切っていない原則的なものである可能性もあろう。
例えば、
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