2024年は「選挙イヤー」と呼ばれる、大きな選挙が続いた年であり、また、様々な意味でサプライズの多い選挙結果が出た年でもあった。まずは、主要な選挙を一通りおさらいしておこう。
不安定な結果ばかり生まれた2024年選挙
1月の台湾総統選挙と立法院選挙では、総統選で民進党の頼清徳が勝利し、同一政党が3期連続で総統職に就くことになったが、立法院では国民党、民進党が共に過半数を取れず、8議席を獲得した民衆党がキャスティングボートを握ることになった。しかし、民衆党の党首である柯文哲は汚職事件で起訴され、係争中であり、有罪となれば民衆党の勢いは失われ、政治は混迷の状態となるだろう。
また、4月に行われた韓国の総選挙では、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の不人気も手伝い、300議席のうち、野党の「共に民主党」が175議席、また進歩系で「共に民主党」から分派した、曺国(チョ・グク)元法相が率いる「祖国革新党」が12議席と、野党が議席の3分の2に迫る勢いとなった。
4月から6月にかけて行われたインドの総選挙では、これまで国会での過半数を背景に、権力を集中させてきたナレンドラ・モディ首相率いるインド人民党(BJP)が過半数を失い、地域政党と連立することで、何とか過半数を確保するという状況にある。その結果、モディ首相も政権運営を慎重にせざるをえなくなり、かつてのようなワンマン首相ぶりを発揮できなくなっている。その状況は、2020年以来続いてきた中印国境対立に関する暫定的な合意を引き出し、ビジネス界の要請を受けた、中国からの直接投資を促進する政策への転換に反映されている。
また、5月に行われた南アフリカの総選挙でも、アパルトヘイト終結以来、過半数を維持してきたアフリカ民族会議(ANC)が30年間で初めて過半数を失うこととなった。南アでは議会が大統領を選出するため、シリル・ラマポーザ大統領は第二党である民主同盟(DA)と統一政府を形成することで合意し再選を果たした。しかし、水と油の関係であるANCとDAの連立は脆く、不安定な政権運営を余儀なくされている。
さらに、6~7月にイギリス、フランスで総選挙が行われた。いずれも年内には予定されていなかった選挙で、イギリスでは支持率を失い続けている保守党が、およそ勝利の見込み無く解散に打って出た結果、労働党が圧勝することとなった。ただ、それは労働党の勝利というよりは、Brexitを主導したナイジェル・ファラージ率いるリフォームUK党と保守党が票を割った結果、保守党が大敗した選挙であった。しかし、政権についた労働党も、党首で首相のキア・スターマーのスキャンダルが発覚するなど、就任以来支持率を下げ続けている。
フランスでは、6月の欧州議会選挙で極右の国民連合(RN)が第一党となったことを受けて、エマニュエル・マクロン大統領が国民議会を解散した。総選挙の第一回投票ではRNが第一党となったが、決選投票でマクロン大統領の中道派と左派が選挙協力したことでRNから議席を奪い、左派と中道派で過半数を取ることが可能となった。しかし、左派が首相候補で一致できず、最終的に中道派で欧州委員経験のあるミシェル・バルニエが首相となった。
しかしバルニエは、予算案を強引に通過させようとして左右両派から批判を浴び、不信任決議案が可決されたため、辞任に追い込まれた。マクロン大統領はベテラン政治家で中道政党「民主運動」党首のフランソワ・バイルを首相に選んだが、政治的不安定さは解消されておらず、政権運営の困難は続くとみられている。
加えて、日本でも予定されていなかった総選挙が行われた。その起点となったのは9月の自民党総裁選だ。「裏金」問題によって政権の支持率が下がり、岸田文雄首相が不出馬を宣言したことで、過去最多の9人が立候補する総裁選が行われた。この「裏金」問題で派閥が解消されたこともあり、総裁選は混戦となったが、一般党員票に支えられた石破茂が当選した。
首相となった石破は、非主流派である弱みを克服すべく、就任直後の10月に衆議院を解散したが、結果として自民党・公明党の連立与党が過半数割れを起こし、少数与党となった。これにより、補正予算や政治改革案などで野党の要求を飲まざるを得なくなり、政治的なリーダーシップを発揮できない状況にある。
米・伊以外は極めて不安定なG7の政治状況
ここまで2024年の主要な選挙を振り返ってみたが、いずれの選挙においても共通するのは与党・現職の苦戦である。
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